池田誠の「今週の逸品」第17回~「明日のナージャ」の《 星の瞳の万華鏡 》

今回の逸品は、アニメ「明日のナージャ」に登場した「星の瞳の万華鏡」
<白状すると実はこのモノ、持っていないのだ。
自分が持っていないモノをここで語るのもどうかと思うが、この「今週の逸品」は、あくまで逸品を紹介する場であって、自分の持ち物自慢をする場ではない。

よしんばそう取れる回はあったかもしれぬが、それは不肖わたくしのありあまるちびっこ魂がなせる所業。決して本来の意図ではないのである。

今回は、日々の中野ブロードウェイ詣でで自分がたびたび熱視線をそそいできたまんだらけドール専門館「ぷらすちっく」のショーケースに並ぶ逸品、ナージャの「星の瞳の万華鏡」について語ってみたい。

(まんだらけショーケースの「星の瞳の万華鏡」
事情を話すと、親切なスタッフのかたがガラス越しでなく写真を撮らせてくださった)

 

アニメ「明日のナージャ」は2003(平成15)年2月2日~翌2004(平成16)年1月25日、テレビ朝日系列で日曜朝8時半~9時に放映された

内容は、少女ナージャが旅芸人一座と旅をしながら母親をさがす物語。孤児院で育った少女ナージャは、13歳の誕生日、母のドレスと日記帳をプレゼントされ、死んだと思っていた母親が生きていることを知る。そこでナージャは踊り子として旅芸人ダンデライオン一座に加わり、母親探しの旅に出た。

舞台はイギリス、フランス、スイス、イタリア、スペイン、ギリシア、エジプト、オーストリア・・・とヨーロッパ中にわたり、そこに貴公子フランシスや怪盗黒バラ(=フランシスの双子の兄キース)との恋愛、侯爵家の後継者争いなどがからんでくる。作品にはチロリアンダンス、フラメンコなど各地のダンスをナージャが踊るシーンが散りばめられ、これも見どころのひとつとなった。

 

(箱裏説明。万華鏡は電池を入れて内側を光らせる。
また取り替えパーツが3種類つき、画面を変えられる)

 

さてこの「明日のナージャ」は、放映当時あまり評価されていなかった。

まず視聴率が、前作から相当ダウンした。
ちなみにこの前作が「おジャ魔女どれみ」シリーズだったと言えば、うなずくかたも多いだろう。
女の子たちが魔女修行するコンセプトで大きな人気を呼んだこのシリーズ、1999(平成11)年の放映スタート時に小3だったどれみたちが、4年の放映期間で6年生になった。どれみたちと一緒に成長してきた視聴者が、シリーズ終了でどれみロスとなり、後番組に乗れなかった可能性はおおいにある。
また、前作とがらりと変わった世界観やデザインに視聴者が切り替えできなかったこともあるだろう。

そんなわけで、ナージャはキャラクターグッズの売り上げもふるわなかった。
バンダイ親方はグッズの売り上げが良ければ視聴率の低迷などお許しくださるが、この時はご聖断をくだす寸前だった。事実ナージャは打ち切られかけ、首の皮一枚でつながったという。大人気の「どれみ」シリーズと「プリキュア」シリーズに挟まれた谷間の単発作品、それが「明日のナージャ」なのだ。

だが単発で終わったからこそ、「明日のナージャ」は完成体だと言うこともできる。
数々の伏線をきちんと回収し、母親探しも後継者争いも決着をみて、ラストでナージャは新たな旅に出る。この結末の完成度とさわやかさが、「ナージャ」の大きな魅力である。
そしてこの中のダンスシーンはやはり女の子の気持ちをつかんだのだろう。自分は後続のプリキュアにおけるダンスの比重を見るたびに、ナージャでダンスがあれほど真正面からとりあげられたことの大きさを思う。

原稿を書いた後、けっきょくメルカリで箱なしを衝動買いした「星の瞳の万華鏡」

 

さて、今回のキャラクターグッズ「星の瞳の万華鏡」
女の子のモノにはさほど詳しくないが、万華鏡がこの手のグッズになるのは珍しいのではないか。
「星の瞳」とは、ナージャ憧れの貴公子、イギリス貴族ハーコート侯爵家のフランシスにナージャがつけた呼び名「星の瞳のナイト」からきている。
万華鏡はそのフランシスからナージャが貰ったもので、ナージャは万華鏡を見てはフランシスを思い、心を慰める。万華鏡がナージャとフランシスを繋ぎ、黒バラの怪盗キースの存在もそこに加わってくる。

万華鏡を覗くとき、閉ざされた別の世界が目の中に広がる。
それはナージャの目に映った光景そのものである。
夢をみる、恋をする。万華鏡の世界は、旅芸人にまじってひとり旅する少女の心の中をあらわしている。

打ち切られかけた「明日のナージャ」が首の皮一枚つながったのは、さる筋の孫娘がナージャの大ファンだったからだという。
事実かどうかはわからない。ただ、ありそうな話ではある。

自分はそれを、力をもつ人の縁故者が希望を叶えた話だとは感じない。ひとりの女の子の願いが番組を動かした話であると感じる。「ナージャ」とはそういう作品であり、ささやかだけれど人を深く惹きつける、いかにも「ナージャ」らしい動かし方だと思うからだ。

それはまるで少女が獅子をくだすような、優しい魔法の勝利に似ている。そう思うことは自分を幸福な気持ちにし、陽の光とかぐわしさが心を満たす。

 

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