7 価値をめぐる戦い ~ 世に残すために値をつけるのだ
堤さんは語る。
「41番はライダーの正面向いた上半身の写真で、すごくカッコいいでしょう。これはカルビーに送ってアルバムと交換するより、手元に残しておきたいと思う子が結構いたんじゃないか。だから少ないながらも残っている。
でも46番はこんな絵柄でしょう。子供だったら躊躇なく送っちゃったんじゃないかな」
46番は宙返りする仮面ライダーの写真だが、ライダーの顔はよく見えず、ちびっこ心に訴える派手さには少々欠ける。
しかし「なんでも鑑定団」の影響は絶大だった。それはすなわち、1枚のカードにこれほどの高値がつくという事実を、世間がはっきり認識したということであった。堤さんが買ったわずか1ヶ月後、「ハンマープライス」という別の番組で、14局46番に100万円の値がついた。
14局46番(左)と14局41番(右)
「14局46番、ぼくはその10年後に20万で買ったよ」
その日同席していた亭主が、横からひょいと口を出した。
「ソッコーで50万で売ったけど」
・・・売ったのか!おまえはァ!
わたしは思わず声を上げた。
「だって堤さんが持ってるからいいかなあと思って」
・・・ううーむ。
家計的には完全に正しい判断だが、この場で聞くと若干忸怩たる思いもするのが我ながら恐ろしい。
しかしあの「なんでも鑑定団」以降、カード1枚20万、50万という金額が当然のように口にされる時代になったのだ。
堤さんは語る。
「ライダーカードは大きい1枚の紙に110枚分を刷ってそれをカットするんですが、231~255番、まだ裁断されていない状態のものが見つかって、100万円くらいするそうです」
「1面ぜんぶラッキーカードってのもあるみたいですねえ。これだと、1面付け110枚の内2枚もしくは4枚がラッキーカードという法則がガタッと崩れる」
「TR9版、カードになったやつで、まだ現物確認されてないものが2~3枚あるらしい・・・90万でキンキーズが探しているというけど・・・今の人たちはお金のかけかたが違うからなあ。ちょっとついていけないなぁ」
現在のカードマニアたちの投じる金額は、堤さん本人の思惑を超えた桁外れのものになっているようだ。
いま、堤さんは振り返って言う。
「この歳月、紙モノの価値を上げるための戦いだった」
「なんでも鑑定団」での14局46番、あれは堤さんの体系化の完成であり、また同時に、仮面ライダーカードの価値をめぐる、世間に対する挑戦の始まりでもあった。
何しろ紙モノの値が低すぎた。
まとめて幾らで売られるカードたち。
ブリキのおもちゃや超合金などは以前から高額だったが、紙モノのコレクターでそんなに金を払う人間はいなかった。
「カードやブロマイドに値段をつけよう、ってのが当時の目標だった」
安価でいいじゃないか、ということではなかった。
そのモノの価値を低く見られるということは、それらを知られざるまま闇に葬ってしまうことにつながっていた。人目をひく値段をつけて、埋もれている品を表舞台に引きずり出すことが必要だった。このはかなくいじらしいカードたちに値を与えること、正当な権利を与えて歴史に残るものとすること、堤さんのやろうとしたのはそのための戦いだった。
「高くしたと批判する人もいたけれど、高くしないと価値観として人に認知されないでしょう。値段をつけることによってそのモノがおもてに出てくる。世の中に残る」
「どうしても見つからなかった14局の46番、あれは10万円という値段があったから出てきたんですよ」
けっきょくのところ、その値段は堤さんの予想を超えて上がった。
14局46番の値は直後に100万円に跳ね上がり、20年という時を経てもその値段は変わっていない。そしていまも、数十万円をものともせず、日々レアカードを探し回っているマニアたちがいる。堤さんは思う。いま1枚150万でも払う人がいるのはこの10万円があったからなのだ、と。
14局46番。すべてがこの1枚から始まった。
仮面ライダーカードの価値をめぐる戦い。
世に残すために値をつけるのだ。
ライダーカードの存在が、歴史に埋もれてしまわぬように。