堤哲哉  

特撮研究家、ライター。

1960年東京生まれの埼玉育ち。東京デザイナー学院卒業。
敬愛する東映プロデューサー・平山亨氏製作の「仮面ライダー」など、主に昭和の特撮、アニメ作品関連の記事を執筆する。えむぱい屋代表。

小学生時代に仮面ライダーカードの蒐集に熱中。大人になって蒐集再開、同人誌を経て1993年、著書『仮面ライダーカード』を出版。仮面ライダーカードの分類を確立し、ライダーカード研究の文献学的基礎を築いて第一人者の地位を不動のものとする。
ライダーカード以外にも、数あるお菓子のおまけカード、駄菓子屋売りのミニカードや5円ブロマイド、キャラクターノートといった紙物のコレクション及び研究を進めている。

『ザ・ウルトラブロマイド』(1997 扶桑社)『マグマ大使 パーフェクトブック』(1999 白夜書房)『ゴジラブロマイド大全集・・・東宝人気怪獣総進撃』(2000 エンターブレイン)『ぼくらのヒーロー伝説 昭和40年代アニメ・特撮ヒーロー大研究』(2002 扶桑社)『「悪魔くん」「河童の三平」完全ファイル・・・水木しげる原作テレビドラマ』(2002 青林堂)『仮面ライダーX,アマゾン、ストロンガー大全』(2004 双葉社)『ウルトラヒーロー完全ガイド』(2012 メディアックス)  など、著書・共著多数。

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 1  プロローグ ~ 仮面ライダーカード最後の1枚

2016年9月 池袋

久しぶりに会った堤さんはずいぶん痩せていた。入院、手術の話は聞いていたが、大病から生還した人という様子を漂わせている。
三連休の中日で人出はすごい。しかも雨天。雨が降ると手術痕がひっつれるような感じがするらしく、堤さんは始終胸元をさすっていた。
・・・本日はご足労いただいて、すみません。
「いえ、もう三ヶ月も経ってるんでね。家にばかりひきこもっていたからそろそろ外に出なくちゃ。きょうはリハビリを兼ねて、いい機会です」
堤さんはシャツをずらして傷跡をみせてくれた。
・・・あ、ちょっと仮面ライダーみたい。
「そう、ほんと○○人間ですよ~」

わたしたちは東口の地下にある喫茶店に落ち着いた。
堤さんはあたたかいミルクティーを注文し、ほっとした顔をみせた。
「まずは正統中の正統をということで、持ってきました」
堤さんはテーブルの上にカードの入った透明ケースを置いた。
14局の46番

宙返りする仮面ライダー。
空は曇天のようにくすみ、身をひねったライダーの顔は撮影の角度でよく見えない。
これが最後の最後まで出てこなかったという幻のカードなのだ。

裏面を返すとこのように書かれている。

46 ラッキーカード
このカードを下記の所へお送り下さい。仮面ライダーカードを入れるアルバムをお送りいたします。
〒321ー31 宇都宮市平出工業団地 カルビー製菓 ライダー係仮面ライダーのひみつ
人間の10倍のつよさの人工筋肉。じどう車もひとけりのライダーフット

14局に属するライダーカードは初版で1~60番まである。かつてカードマニアの間で、その中の46番が出てこないのは周知の事実だった。誰もがこれを探していたが見つからなかった。あまりに出てこないので、もしかしたら存在しないのではないかとまで言われていた。
だが堤さんはそのとき推理していた。
まだ見ぬ14局46番は、きっとラッキーカードなのだろう、と。

 

 2 仮面ライダーカードの基礎知識。そして堤さんは推理していた

ここで、あまりにも有名な仮面ライダーカードの基礎知識を少しおさらいしておきたい。

仮面ライダーカードとは、1971年カルビーが売り出した仮面ライダースナックに、1枚ずつ付けられていたカードである。子供たちに大流行していた仮面ライダーの写真がおもてに載り、裏面に解説が書いてある。カードには通し番号がついていて、当時、1~546番まで発行された。

テレビ放映と並行した販売拡充などに応じ、カードは何度も版が切り替わった。14局版→25局版→明朝版→ゴシック版、そして、新カード明朝版、新カードゴシック版。さらにその後、記号版。

ちなみに14局、25局とは、「仮面ライダー」を放映したテレビ放映局の数を表している。明朝版、ゴシック版は、裏面の説明の一部がそれぞれ明朝体、ゴシック体で書かれ、記号版は、裏面右下に、N、S,T,TSなど、記号が入る。今回の話題となる14局版は、ライダーカード最初期の発売分であり、1~60番の初版はここに属している。

次に、ラッキーカードとは、それをカルビーへ送ると、ライダーカードアルバムと交換できるという特典付きの仮面ライダーカードだ。

一般的に、ラッキーカードは、多くの通常タイプの中にたまに混じっている。
ところがここに、きわめて限られたケースだが、全てラッキーカードで出てくるカードがある。14局版の41番と46番、25局版の35番と73番がそれだ。これらの収集は至難のわざであり、よって仮面ライダーカードの「四天王」と呼ばれている。

4枚の中でも、14局41番と46番はさらに特殊だった。
普通、ノーマルカードの裏面は、写真の解説だ。
普通、ラッキーカードの裏面は、アルバムと交換する送り先のお知らせだ。
だがこの2枚のラッキーカードには、解説もお知らせも両方載っているのだ!

堤さんはあのとき推理していた。
みんなが血眼になって探しているのに現れない14局46番。それはきっとラッキーカードなのだろう、と。

この推測には理由があった。
当時、14局46番同様出てきにくいカードとして、14局41番があった。
「41番がラッキーカードだというのはわかってたんですよ。発売されたTVシリーズのライダーLDボックスの特典に、当時のCM映像が入っていて、そこに41番が映っているのはコレクター間で知られていた。それがラッキーカードだった。ならば同じように出てこない46番も、同じくラッキーカードなんじゃないか」

推測はしたが証明ができない。
何しろ現物がどうにも見つからないのだ。
たとえ手元になくても、大概それを見たことがあると言う人間くらいはいるものだ。それなのに14局46番は、そもそもそれを見た者すらいないのだった。そうこうしている内に、41番のほうは見つかった。46番の見つからなさはいよいよ神秘めいてきた。これはもしかしたら世の中に存在しないのではないか、そんな説まで出るほどだった。

堤さんのもとに或るテレビ番組への出演話が持ち込まれたのは、そういう時期だった。
番組の名前は「開運!なんでも鑑定団」。
1994年からテレビ東京系で放映された人気番組である。

 3「開運なんでも鑑定団」~「仮面ライダーカード14局46番を10万円で買います」

「開運!なんでも鑑定団」
この名前を覚えていらっしゃるかたは多いだろう。身近なお宝を鑑定して値付けするという番組で、今まで必ずしもお宝とは見なされていなかったさまざまな品に値段がつく、その驚きと物珍しさが人を惹きつけた。
ブリキのおもちゃコレクションで有名な北原照久氏もこの番組に出演している。
当時既にライダーカードの研究者として知られていた堤さんに、この番組からお呼びがかかったのだ。
何かを探すのにこれ以上の機会はなかった。
堤さんは番組で視聴者に呼びかけた。
「仮面ライダーカードの14局46番を、1枚10万円で買います」
いま、堤さんは思うのだ。
あそこからすべてが始まった。
10万円という金額が意味していたものは、ただの数字ではなかった。
世間におけるライダーカードの価値を上げる戦いが始まっていた。

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