「怪獣王子」は不運な作品だと思う。
その不運は、第1次怪獣ブームに乗じてつくられた特撮作品の多くに言えることかもしれない。
たとえば「魔神バンダー」。
昭和41(1966)年に制作を終え、同年10月号から『冒険王』でコミカライズが連載されたが、放送枠の関係上、実際の放映は昭和44(1969)年まで待たされた。この時点で完全に怪獣ブームは終わっており、放映は13本3か月で終了した。
また、たとえば「豹マン」。
これは講談社、秋田書店の2社にわたってコミカライズが派手に展開された。『冒険王』昭和42(1967)年10月号~43年8月号(昭和43年3月号まで「豹」の読みは「ジャガー」)、『少年マガジン』昭和42年42号~43年17号、『ぼくら』昭和43年1月号~7月号、『たのしい幼稚園』昭和43年1月号~5月号。だがテレビ局の事情で放映が延期され、なんと放映されぬまま終わってしまった。
少年マガジン連載『豹マン』単行本
すべては怪獣ブームに陰りが見えたことが原因だった。
昭和43(1968)年3月30日「巨人の星」放映スタート。「タイガーマスク」、「ゲゲゲの鬼太郎」・・・。スポ根ブーム、妖怪ブームの時代が始まっていた。
もっとも実際のところは昭和43年当時、怪獣ブームを牽引すべき「ウルトラセブン」がコストカットのため怪獣や宇宙人との戦闘に重点を置かず(置けず)、子どもたちが離れて視聴率が下がったのをマスコミが騒ぎ立てただけのこと。決して「怪獣好き」の終わりではなかったのだが。
ともあれ、第1次怪獣ブームをあてこんで作られた特撮の多くが、ブームの波に揉まれてにがい目を見たのだった。
そしてマンガは、常に最大の番宣かつ伴走者としてテレビ放映とともに在った。当時の少年誌の誌面や出版状況は、その作品への期待度や空気感の変化などさまざまな思惑をあらわに見せてくれて面白い。ここでの足並みの乱れはそのまま作品のめぐりあわせの不運を示すのだ。
さて本題の「怪獣王子」である。
「怪獣王子」の制作は昭和41(1966)年スタートしたが、制作側のトラブルが続出し、なかなか進行しなかった。
掲載権をもっていたのは少年画報社だった。
当初、画報社は、これを昭和42年4月頃の放映開始とみていたようだ。『少年画報』は昭和42年1月号からコミカライズの連載をスタートさせた。
3月号では「テレビ放映せまる!!」の煽り文句とともに、怪獣王子タケル、共に戦う怪獣ネッシー、敵である怪鳥人間がカラー口絵に登場している。折しも「ウルトラマン」放映が同年4月9日に終了。怪獣ブームの最大の立役者の後を狙うタイミングだった。
だが放映は遅れて7月からとなり、その7月発売の『少年画報』8月号は、表紙で「怪獣王子」をメインに据え、カラー口絵で「フジテレビほか全国33局で放映」として、敵怪獣(恐竜)5体を紹介した。しかしトラブルはおさまらず、放映は10月までずれこんだ。
あのとき半年遅れなかったらと想像するのは短絡的かもしれない。だが昭和43(1968)年の流れを考えると、この作品が攻めの時期を逸したと感じるのはぼくだけではないだろう。
ようやくこぎつけた放映だったが、視聴率は今ひとつ伸びず、「怪獣王子」は半年で打ち切りとなった。
『少年画報』は昭和42年8月号から表紙のメインをずっと「怪獣王子」にしていたが、ついに43年3月号、表紙の顔を「怪物くん」に切り替えた。
たぶん打ち切り決定ぎりぎりまで、この作品に期待を寄せていたのだろう。
放映期間中、少年画報社は、「怪獣王子」の絵本を2冊出している。
1冊目は園田光慶の描いた純然たる絵本だが、今回とりあげるのは2冊目の『怪獣王子 2』である。
まず表紙にでかでか、タケルとネッシーの写真。
中身はタケルやネッシー、敵の鳥人司令、昆虫司令、ゴズラス、獅子竜など12体もの怪獣(恐竜)の写真が載り、1体につき見開き2ページで紹介されている。
これはまさしく怪獣図鑑だ!
なお、園田光慶による絵本がかなり厚手の紙で表1から表4まで18ページしかないのに対し、2の方は表1から表4まで全34ページある。
当時、絵本に写真が用いられることは珍しいことだった。講談社の「ウルトラQ」も「ウルトラマン」も小学館の「キャプテンウルトラ」も絵だけだった。
ウルトラシリーズ放映当時の絵本で最初に写真を使用したのは「ウルトラセブン」で、昭和42年12月15日発行のもの。この『怪獣王子2』は同年12月20日発行で、セブンとほとんど変わらない。
なお、これより先行する写真系絵本は、テレビカラー絵本『マグマ大使』5(少年画報社 昭和42年6月1日発行)くらいだが、これに関してはいずれこのコーナーで扱おう。
1冊目の絵本。園田光慶による『大にんきテレビ絵本 怪獣王子』
1冊目の裏表紙。「マグマ大使」5巻のみ写真版の絵本表紙もみられる
とにもかくにも、当時物で「怪獣王子」に関してこれほど多くの写真を載せた資料は他にない。図鑑的な構成も子どもの好みのセンターにずばり狙いをさだめている。少年画報社のテレビ放映への期待と熱量が余すところなく伝わってくるのだ。
結果的にこの本は怪獣図鑑をもたない「怪獣王子」にとって唯一の図鑑的存在となった。そしていまだに、この作品を語る上で欠かすことのできない最高の1冊なのである。
『怪獣王子2』裏表紙