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池田誠の「今週の逸品」第10回 『別冊たのしい幼稚園』昭和47(1972)年10月号  

幼児向け雑誌はやばい。
こんなの集めようとすると気が遠くなる。

講談社の『たのしい幼稚園』や『おともだち』にせよ、はたまた小学館の『幼稚園』や『よいこ』にせよ、ちびっこたちがていねいに扱うとは考えられない。
いたずら書きはする、切り刻んでバラバラにする。
一応原形をとどめていたとしても、まずとじ込み付録や口絵のたぐいは切り取られているし、主人公の目からビームが発射されている。

自分はコミカライズが専門なので、日々おさおさ収集に余念ないのだが、特撮アニメのコミカライズを集めようとすると、この昭和から平成途中までの幼児向け雑誌が鬼門となる。

そこで『別冊たのしい幼稚園』である。

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『別冊たのしい幼稚園』は、「仮面ライダー」をはじめとする特撮ヒーローブームを受けて、昭和47(1972)年8月(発売は7月)創刊された幼児向けテレビ絵雑誌だ。
発売は毎月15日。本誌『たのしい幼稚園』は月初めの発売だから、半月ずらして両方買わせようとする意図は見え見えだった。

この『別冊たのしい幼稚園』には、本誌にみられる「お母さまへ」的な教育的ページがない。すべてがテレビヒーローの写真、まんが、絵物語で埋め尽くされている。
この怒涛のようなヒーロー三昧がとにかく可愛い。
『別冊たのしい幼稚園』は、ちびっこが「お母さま」抜きでヒーロー世界にどっぷり浸かれる極上の楽園だ。

そんな多幸感溢れる 『別冊たのしい幼稚園』だが、創刊してわずか1年ちょっと後、昭和48(1973)年10月号(発売は9月)をもって休刊してしまった。
理由は簡単で、昭和46(1971)年からの第二次怪獣ブームが下火になったのだ。
その数、全部で15号。
もちろん本誌の『たのしい幼稚園』に比べ、1号当たりの発行部数ははるかに少ない。
そんなわけで、『別冊たのしい幼稚園』は、幼児雑誌という鬼門のさらにその上をゆく、鬼門中の鬼門なのである。

<h2>昭和47(1972)年10月号の凄み </h2>

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裏表紙

 

さて雑誌でもカードでも、総じて番号のあるモノの蒐集はその始まりと終わりが要になる。つまりは創刊号と最終号(休刊号)だ。

だが『別冊たのしい幼稚園』はどうなんだろう。
この雑誌の創刊号は、発行部数が多かったのか比較的現存率が高い。
休刊号は特撮ブームが下火のせいでテレビヒーローの情報が少なく、正直言って内容的に物足りない。ばかりか、どこぞにデッドストックが相当あったらしく、かなり状態のいい美本が多く出回っている。

そんな中でぼくが、おそらく『別冊たのしい幼稚園』の中で最強じゃないかと思っているのが、昭和47(1972)年10月号である。

まず「仮面ライダー」や「超人バロム・1」の4色特集は迫力満点。
「変身忍者嵐」特集は「怪人ずかん」で、2色ながら6ページでそれまでテレビに登場したほとんどの怪人を紹介する。
そして何といっても「仮面ライダー」のコミカライズが特殊回なのが大きい(作画は石川のりひこ(現・石川森彦))。

新しい仮面ライダーが登場し、新組織が出てくる回なのだが、ここにV3ではなく「仮面ライダー3号」が登場する。
新組織ゲル・ショッカーは「ゴーストショッカー」と呼ばれ、テレビで登場する怪人ガニコウモルも、「怪人カニコウモリ」の名前で、「ブラックしょうぐん」の命により「あたらしい仮面ライダー」と戦う。「あたらしい仮面ライダー」は「カニコウモリ」を本気の「ライダー=サイクロン=キック」で爆死させ、「ぼくは、ライダー三ごう  そして、一ごう・二ごうとともに、おまえたちと たたかうのだ」と宣言して去ってゆくのだ。

ちなみにディアゴスティーニの仮面ライダーの仕事をしていたとき、この話を非常に面白いと思ってコラムで取り上げたところ、講談社の『たのしい幼稚園、別冊たのしい幼稚園 オリジナル版仮面ライダー復刻大合集』の刊行や、東映の劇場版「仮面ライダー3号」の上映に繋がった、と聞いている。仮面ライダー3号は初期の構想が反映されたもので、それだけインパクトの強い、伸びしろのあるワードだったのだ。

 

またこの昭和47(1972)年10月号はふろくがすごいのだ。

「仮面ライダーひみつずかん」は表1~表4で60ページ、中身だけで56ページ。

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4色のグラビア特集8ページで新1号や旧2号や旧ダブルライダーの活躍をたっぷりみせ、2色の特集では「仮面ライダーのとくいわざ」16ページ。1号2号の変身ポーズや新サイクロン号の図解など、子供たちが知りたい情報がぎっしりだ。
圧巻は巻末の「ショッカー怪人ずかん」4色16ページで、くも男からモスキラスまで、ザンジオーを含む全怪人を紹介している。

ちなみにこのふろくでは、細井雄二による「ふたりの仮面ライダー」なる1色16ページの漫画を載せている。
「サンダーストーム」なるショッカーの新怪人と1号ライダーが戦い、ピンチになったところで2号ライダーが登場というお決まりのパターンだが、テレビに登場しないオリジナル怪人にダブルライダーの活躍という最高の展開だ。
しかもこの漫画は、先の『仮面ライダー復刻大全集』に掲載されておらず、まったくの単行本未収録である。

たった200円でこの内容、このふろく。
昭和47(1972)年、50年前の話とはいえ、すごい話ではないか。
変身ブームというものをそのままこの1冊に閉じ込めたような豪華さなのだ。

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