堤哲哉『日本懐かしキャラノート大全』(2021年 辰巳出版)
堤哲哉『日本懐かしキャラノート大全』がいま注目されている。怪獣や特撮ヒーロー、アニメや漫画など、昭和のキャラクターを表紙にしたキャラノートを初めて体系的にとりあげた本書は、豊富な画像と迫力の情報量とで、コレクター必携の1冊となった。この記事では、その見どころ9点を取り上げて、著者直伝の初心者にもわかるキャラノートの楽しみ方を解説する。堤氏のインタビューも必読。初心者向けキャラノートの買い方ガイドつき。
Contents
序・キャラノートを初めて体系化した画期的労作
怪獣、特撮ヒーロー、アニメ、漫画。昭和をいろどるキャラクターたちを表紙に載せたキャラノートは、当時の子供なら誰もが1冊はもっていた懐かしの品だが、これを本格的に扱った書籍は今まで存在しなかった。堤哲哉『日本懐かしキャラノート大全』(2021年 辰巳出版)は、このキャラノートを初めて体系的にとりあげた画期的な労作だ。
著者の堤哲哉氏は、仮面ライダーカード研究の第一人者。1970年代一世を風靡した仮面ライダーカードを分類・体系化し、本格的なコレクターズアイテムに押し上げた張本人である。特撮ヒーロー関連の著作を多数手がけながら、紙モノ全般に研究対象を広げ、意欲作を次々と世に送り出している。現在、日本最大のコレクターズショップまんだらけの目録誌『まんだらけZENBU』で、キャラノートの記事を連載中。
この記事では、堤哲哉『日本懐かしキャラノート大全』の目次を紹介し、本書の見どころ9点をとりあげて、このジャンルの面白さを知り尽くした堤氏直伝の、初心者にもわかるキャラノートの楽しみ方を解説する。堤氏のインタビューも必読。初心者向けキャラノートの買い方ガイド付き。
本書の目次紹介
見どころ9点と楽しみ方
1 広いジャンルの豊富な画像を堪能する
本書には、東宝や大映などの映画から特撮・アニメ・少年漫画・少女漫画など、昭和のキャラノート全体にわたるジャンルの1000点を超える貴重な画像がぎっしり載っている。
「鉄腕アトム」「鉄人28号」「ウルトラマン」はじめ、とりあげられた作品は、なんと272作品以上、漫画家28名。また1950年代の極東ノート「月光仮面」など、キャラノートの歴史に大きな役割を果たした伝説的なノートも見ることもできる。
画像がやや小さいと思う向きはあろうが、これは情報量の充実を選択したがゆえのこと。1冊の中にこれでもかとばかりに詰められた、色とりどりの豪華なノートたちを、まずは堪能しよう。
2 自然な構成でテレビ黄金期の子供文化にどっぷり浸る
本書の膨大なキャラノートは著者の豊富な経験によって分類され、読者を引き込む配置で並べられている。
アニメでは、キャラノート界の二大ヒーロー「鉄腕アトム」と「鉄人28号」のノートを巻頭に置き、そのあとSF系のヒーローを丁寧に追ってゆく。
また別の流れとして、「マジンガーZ」から「グレートマジンガー」「ゲッターロボ」などへの流れもある。ほかに、世界名作劇場系の≪感動・名作もの≫や、梶原一騎の絶大な影響力を目の当たりにする≪スポ根もの≫などなど。
子どもの世界をいろどった作品群が、アニメはその内容で、特撮はそのプロダクションで分けられ、少年漫画・少女漫画のノートは作家名ごとに並べられている。読者は自然な形でその流れに引き込まれ、それぞれの世界観を味わいながら、テレビ黄金期の子ども文化の流れに浸ることができる。
3 ぬりえ、紙工作・・・キャラノートの仕掛けをばっちりチェック
キャラノートの裏表紙や中面(なかおもて)は、メーカーによってそれぞれ趣向が凝らされている。多くは表紙の絵のぬりえを付けるが、切り取って遊べるゲームや、着せ替え人形、組み立てふろくなど、紙工作を付けたものも少なくなかった。この辺はマニアにとって絶対外せない大切なチェックポイントだ。
本書はキャラノートのおもて画像だけでなく、裏表紙や中面にみられるメーカーごとの工夫も可能な限り並べている。
さまざまな工夫を存分に見て楽しみたい。
本書裏表紙にはキャラノートの裏表紙が集合
4 メーカー、サイズ、製造年、値段・・・すべての考察の種を手に入れる
本書に載せられたすべてのキャラノートには、メーカーとサイズ(A5、B5など)、および、判明する限り製造年と値段の注記がついている。写真に撮るとノートのサイズ感はわからなくなってしまうが、ここでは情報としてすべて提示されている。
サイズや値段、メーカーが違えば、使い方も違ってくる。作り方や発売の傾向も違う。製造年は時代を味わう重要な情報だ。「1966年製造」「ショウワノート」「A5判」など、それぞれの要素を拾い上げて、比較できる面白さも本書ならではのもの。膨大な画像とともに、事典・図鑑のような存在として使うことができるのだ。
なお、画像の隙間に散りばめられたキャプションは、一見さらりと書いてあるが、著者の深い知見と研究成果による最新情報。
メーカーの発売ペース、キャラクターによる弾数の違い、ノートの通し番号までたどっている様子が随所にみえるのがすごい。
これが紙モノ研究の現在地なのだ!
5 これぞ醍醐味、キャラクターの絵の違いを楽しむ
キャラクターの絵の違いを味わうのは、キャラノートの最大の楽しみのひとつである。
同じキャラのノートでも、まんがの絵、アニメの絵、まんが家本人の絵、アシスタントの絵、どこの誰が描いたかわからない変な絵までいろいろあって面白い。見巧者であればあるほどハマりこむのがこの世界。ノートの絵柄の振れ幅の大きさに、ぞくぞくするコレクターは多い。
特に掲載ノートすべてにメーカー名の情報がついた本書では、極東ノート、ショウワノート、セイカノートなど、メーカーごとの違いを見比べることができる。
他にも、「ウルトラマン」はショウワノートが手掛けたのに対し、「ウルトラセブン」はセイカノートが獲得したなど、メーカーの版権合戦がうかがえるのも本書の面白いところ。同じ円谷でも、絵柄が異なるショウワとセイカの対決は見どころのひとつだ。
6 漫画家ファンも大注目のキャラノート
少年漫画、少女漫画のページでは、手塚治虫、横山光輝、桑田次郎、石ノ森章太郎、堀江卓、わたなべまさこ、高橋真琴、牧美也子など、人気作家たちのキャラノートを見ることができる。すべてではないが、作家本人が絵を描いているものは多い。
そのほか、堀江卓のノート絵も、一時期この分野に大きく注力した作家本人の力作であり、本書101ページのコラム「堀江卓先生」で解説されている。
7 海外アニメ輸入の歴史を学ぶ
本書には、テレビ草創期から60年代にかけての海外アニメ作品28作品以上が載っている。ショウワノートの「宇宙家族ジェットソン」、「チキチキマシン猛レース」、セイカノートの「ポパイ」、ベルの「ウッドペッカー」など、ファン垂涎のノートが並ぶ。
海外系ノートは、総じて版権や肖像権の関係で載せることが困難だが、実写もので「バットマン」や「2001年宇宙の旅」、怪獣ブーム華やかなりし頃の「猿の惑星」ノートなども本書では見ることができる。
8 ノートから当時のブームを体感する
「スポ根」ジャンルの先頭に置かれているのが「巨人の星」のキャラノート。『週刊少年マガジン』1966年5月15日号から連載スタートした「巨人の星」(原作・梶原一騎/まんが・川崎のぼる)は大人気を博し、アニメ放映は1968年3月30日~1971年9月18日、なんと3年半の長期に及んだ。
ショウワノートによる「巨人の星」のキャラノートは、最初はまんがの絵柄、そしてアニメの絵柄で発売され、終盤までずっと発売され続けた。発売弾数は「1作品のノート数では最多の可能性が高」く、「2年を超える長期作品で、番組終了時まで商品化した作品はほかに例がない」(122ページ解説)
・・・「巨人の星」ブームは最後まですごかったのだ!
本書はキャラノートの発売状況を通して作品人気の高さも教えてくれる。ここでは「巨人の星」終盤、飛雄馬がアンダースローで大リーグボール3号を投げているノートまで載せている。
9 スケッチブックという一枚絵の凄み
本書のところどころに画像が差し挟まれたスケッチブックは、手元にあればどれも壁に飾っておきたいような素晴らしさだ。
巻頭特集に載っているベルの「三大怪獣 地球最大の決戦」や、マルミヅの「大巨獣ガッパ」などからは、1枚絵の迫力が伝わってくる。また、アニメなどのスケッチブックも、決して大きくはない画像だが、片側にリングのついた横長のスタイルに心奪われること必至の存在感。かわいさ溢れる「鉄腕アトム」、ポップな色使いの「チキチキマシン猛レース」など、なんともコレクター欲をそそられる。
著者・堤哲哉氏へのミニインタビュー
・・・この本のおススメポイントを聞かせてください
この『日本懐かしキャラノート大全』では、まず総合力をめざしました。テレビ黄金期のジャンルの豊富さを全部みせる、網羅するというねらいがありました。
今までのカードやブロマイドの本だと、或る程度ジャンルを特定するというのもあったんですが、この本の役目はとにかく全体を見せることだと思ったので、ジャンルを狭めようとは考えなかったですね。
・・・画像が非常に豊富ですね
いろんな事情でここに載せられなかったキャラノートもいっぱいあるんですよ。版権の問題があったり連絡がとれなかったり、これだけの画像を載せるには大変な苦労がありました。編集の人が頑張ってくれました。
・・・堤さんの考えるキャラノートの魅力とは?
まず、絵の面白さ、独特な味ですね。今ではこういう描き方はしないというような絵、こんなのまであるの?という絵があったりする。
それと、裏表紙などにいろんな遊びを工夫して入れている。そういったゲーム性もある。それを見ると、メーカーが子供をなめていない、大事にしているというのが伝わってくる。
キャラノートを長年つくっているメーカーを見ていると、キャラクターをずっと追いかけ続けるということのすごさを感じます。たとえばショウワノートは、ジャポニカ学習帳とかを出しながら、キャラノートを長年やり続けてきたんですね。そこはコラムでとりあげています。
あとは印刷の面白さですかね。1960年代前半のくすんだような、昭和独特の色合いの面白さや、デザインの変化を眺める楽しみがあります。
「じんちゃく」(人工着色)というやり方が、怪獣ノートとか、ガメラやギララのスケッチブックとか、いろんなところに使われている。これは白黒写真の上から着色してモノクロしかない時代にカラーを見せようとしたんですね。さりげなくやっていて一見わからないんですが、今はない独特の味というのがそこから出てきている。
テレビ放映は最初はモノクロですから。東映動画とかアニメなんかも当初はモノクロですから。その白黒のものをカラーにして出した、「昭和の色」というのを見せたい思いがあります。
・・・読者に対してひと言お願いします。
キャラノートは、テレビ黄金時代の子供文化の日常というのを見せてくれる。そこから読者個人の日常を思い出すきっかけにもなってくれればいいなと思っています。
まとめ:『日本懐かしキャラノート大全』はコレクター必携の1冊だ
テレビ黄金期の子供たちの日常を伝えるキャラクターノート。堤哲哉『日本懐かしキャラノート大全』(辰巳出版 2021)は、このキャラノートを体系的に扱った初めての書籍だ。豊富な画像と細部にわたる情報、深みのあるキャプションを通して、キャラノートの面白さが溢れ出す。このジャンルを語るなら、もはや本書を抜きに語ることはできない。堤哲哉氏会心の『日本懐かしキャラノート大全』は、キャラクター文化、紙モノ、印刷、ノートに関心をもつ全コレクター必携の1冊である。
[itemlink post_id=”7228″]〔付〕初心者へのキャラノート買い方ミニガイド
現在、店舗でキャラノートを探すなら、主なところは、コレクターズショップ「まんだらけ」。(中野店 東京都中野区中野5丁目52-15 ·中野ブロードウェイ内 03-3228-0007)。
「まんだらけ」内の「こんぺいとう」という店舗でまず訊いてみるのがおすすめ。通販もあり。
ネット取引の場合、メルカリは新しいモノが多いため、昭和キャラが出るのは比較的少ない。
ヤフオクがいちばん使えるが、要注意なのは復刻版の存在。鉄人28号やゴジラなどのノートには復刻版があるので、表記がない場合は、出品者に確認しよう。