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池田誠の「今週の逸品」第 27~『冒険王』1973年お正月大増刊号

今回の逸品は『冒険王』1973年お正月大増刊号

表紙に仮面ライダーのアップが燦然と輝く「仮面ライダー特集号」である。その素晴らしさは天より高く海より深く、初めて見たときの感動がいまも熱くよみがえる。

 

だが今回これを語りたいのは他でもない。そう、あれが復刻されたからだ。あれ、つまり仮面ライダースナックは1972年、全国のちびっこたちを熱狂の渦にたたきこんだ

正確に言うと熱狂させたのはスナックではない。おまけについていたカードである。カードだけとってスナックを捨てる子が続出し、社会問題になってしまった。

ぼくの友人のSくんもこのスナックを箱買いし、カードだけとってお菓子は一切食べなかった。ぼくはSくんのおこぼれに預かり、だぶりのカードをたくさん貰って、ついでにスナックをぽりぽり食べていた。

そのSくんが或る日小脇にかかえていたのが、この雑誌、『冒険王』1973年お正月大増刊号だ。ぼくはひと目見た途端しびれてしまった。それまで仮面ライダーがこんなに大きく表紙に乗っている雑誌を見たことがなかった。

子供時代の記憶の中で、Sくんの仮面ライダースナックの買いっぷりへの驚嘆の念とこの『冒険王』への憧れが重なっている。スナックの味を思い出すと、この雑誌に釘付けになった自分が浮かんでくる。

 

1 「シン・仮面ライダースナック」発売

2023年2月6日「シン・仮面ライダーチップス」が発売された。一緒に「シン・仮面ライダースナック」も注文受付を開始、の予定だったが残念ながらサーバー障害で延期となり、そのあと抽選販売に切り替えられた。

サーバーが故障するのもむべなるかな、このスナックは1971年発売「仮面ライダースナック」の復刻版なのだという。サーバーをパンクさせるくらい興奮したちびっこがわんさかいるはずだ。

1972年当時、カルビーの仮面ライダースナックにつけられた仮面ライダーカードは、全国の小学生を熱狂させていた。静岡の片田舎の小学生だった自分たちも、関心事はもっぱらライダーカードだった。クラスのトップコレクターはSくん。大きな農家の子でふんだんに小遣いをもらっており、しかも彼の家のそばには、ぼくらの学区で市街地にいちばん近い駄菓子屋があった。毎週金曜日、その店に最新の「仮面ライダースナック」が入荷する。Sくんはそれを豪勢に箱買いした。

そして、ああ、なんたる偶然であろうか、金曜日、ぼくはその駄菓子屋の至近距離にある歯医者にかよっていたのだ。歯医者から一歩出るとすぐ駄菓子屋の店先がみえた。というか、悠然と箱買いするSくんのすがたが見えた。

かれの買いっぷりはすごかった。2箱でも3箱でも入った分は即買いだ。ぼくはかれと特に親しかったわけではないがSくんは気前がよかった。買ったカードを無造作にその場で剥いて、だぶったものはじゃんじゃんくれた。大量のスナックには見向きもせず店からすっと出て行った。ぼくはそのお菓子ももらってきて全部たいらげた。今に至るまでぼくが心底金持ちだなあと思ったのはこのSくんだ。

2 Sくんが『冒険王』1973年お正月大増刊号を持っていた

1972年12月中旬のやはり金曜日、歯医者から出たぼくは、いつものとおり駄菓子屋の店先でSくんを見つけた。いつものとおりスナックを箱買いしていたSくんは、小脇に1冊の雑誌をかかえていた。それがこれ、『冒険王』1973年お正月大増刊号だった。

表紙にでかでかと仮面ライダーの顔。ちらっと見て目が釘付けになった。

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当時自分は、地元の小さな本屋で『冒険王』の本誌を買っていたが、別冊や増刊号などは入荷しておらず、こんな表紙のは見たことがなかった。もちろんクラスで誰も持ってはいない。

食い入るように見つめていたのだろう。「貸そうか?」とSくんは訊いてくれた。
「ありがとう、でもいいや」とぼくは言った。
値段はしっかり見た。180円だ。こういうのは借りて読むのじゃダメだ。持たなきゃ。頭の中では早くも一生懸命算段をしていた。そしてそのあと何とか180円をひねり出してぼくはこの雑誌を買ったのだ。

3 『冒険王』1973年お正月大増刊号コンテンツ

ここでようやくこの雑誌の素晴らしい内容を記しておこう。

まず表紙がとにかくいい。アップの仮面ライダーの顔を背景に、キックするライダー、身構えるライダー、剣を片手にしたライダー。下方にはライオン丸やサンダーマスク、デビルマン、変身忍者嵐、アストロガンガー、ドタマジン太など本誌でおなじみのキャラクターが並ぶ。

表紙をめくると怪人たちの4色実写カード。仮面ライダー、ライオン丸、サンダーマスク、嵐に登場した怪人たちがそれぞれとりあげられ、裏面に解説がついている。

折り込み口絵は両面4色、おもてには少年仮面ライダー隊員と一緒にサイクロンに乗る仮面ライダー。1973年1月から3月のカレンダーつきだった。裏はサイクロンアクション。サイクロンに乗ったライダーの繰り出す迫力満点のわざが載っている。

図解は全くない。このカードと口絵以外はすべてまんがである。

中でもすがやみつるの「仮面ライダー」は、4色扉を含む48ページで、ボリュームがあった。本誌掲載時はだいたい30ページだから、ほぼ20ページも多いのだ。

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登場怪人はゲル・ショッカーのカナリコブラとネズコンドル。

この2体はテレビ放映ではそれぞれペット作戦を実行する。ここでは共闘するが仲が悪くていがみあい、カナリコブラがネズコンドルに殺されてしまう。また、生贄の血でゲル・ショッカーの怪人8体がつぎつぎとよみがえる。中でもクモライオンはすがやみつる版ではこれが初登場。これらの怪人は幽霊だが、攻撃には実効性があり、手に汗握らせる展開だった。

「変身忍者嵐」は、敵の首領・魔神斎と対決する特別回。この時期、本誌は西洋怪人篇に突入し、主な宿敵陣は置き去りにされた感があったが、ここではメインの戦いが満喫できる。魔神斎が味方のガイコツ丸をも騙して嵐を術中に陥れる。嵐は月ノ輪の協力で術を破り、ガイコツ丸を倒す、などがスピーディに描かれている。

「快傑ライオン丸」もゴースンの正体が明らかになる重要な回だ。

ほかに、本誌で「超人バロム・1」の連載を終えた古城武司が、ディズニー映画「シャギー・ドッグ」のコミカライズを手掛けている。こまかな設定もきちんと取り入れ30ページとは思えぬ読みごたえがある。

まとめ

五十数年前、仮面ライダーカードの大ヒットに発売元のカルビーは大喜び、と思いきや、カルビーは正直めげたのだという。さすが製菓会社の矜持というか、スナックをぽいぽい捨てられ、カルビーは心に深い傷を負った。カードにつけるのはチップスに切り替え、スナックは地下深く封印してしまった。その味がついに復刻される。これが昂奮せずにいられようか。

仮面ライダースナックは不味かったと一般的に言われている。ぼくは初回の抽選に外れたので、まだ復刻版を食べていない。すでに食べた知り合いは「覚えている通りの味だった」と言う。てことは不味かったのか?どうなんだろう。少なくとも五十数年前の自分は、けっこうおいしく食べていた気がする。

記憶の中のスナックの味とこの雑誌、『冒険王』1973年お正月大増刊号はSくんを通して繋がっている。

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当時、自分はスナックを1日1袋ずつちまちま買っていた。無造作に箱買いし、スナックには目もくれずすっと出てゆくSくんを心底すげえと思っていた。
その自分が、Sくんしか持たない雑誌を買ったのは、ものすごく大きな出来事だった。この輝かしい雑誌を自力で買った自分を誇らしく思う。

 

 

 

 

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