この世には本気になってはいけないモノがある。
踏み出すのに腰の引けるモノがある。
今週の逸品は『週刊TVガイド』1973年8月3日号。
人気アニメ「マジンガーZ」を表紙にした小粋で可愛いやつである。
だがこの愛らしさに騙されてはいけない。
この辺の沼地には危険がいっぱい。うっかりハマると地獄をみるのだ。
今回は1973年夏、かわいらしい外見の逆をゆく超強気なアニメ特集号をこわごわ眺め、全盛期のテレビ情報誌の迫力に共にしびれようではないか。
1 『週刊TVガイド』のコレクションはむずかしい
『週刊TVガイド』のコレクションはむずかしい。
まず、出ない。
この雑誌、メインコンテンツは1週間のテレビ番組表である。
貴重なグラビアや特集はあるのにしょせんはオマケのレベル、その週が終われば用済みだ。
それなりの部数が発行されていたはずだが、現存数は相当低い。捨てられる確率が高いのだ。
次に極端に出ない号がある。
この雑誌の揃えにくさを知るコレクターが、コンプリートを求めずグラビアや特集の良い号ばかりをピンポイントで狙ってくる。もともと出ない上に輪をかけて出ない。
3番目、出にくさの理由が今いちわからない。
出にくい号がある。だがその理由が掴みきれない。
人気の記事があるからではない。特に変わった内容が載っているわけでもない。なんとなく出ない、そんな号がいくつもあるのだ。何年かに限定して狙ってもコンプリートなどまず無理筋だろう。
4番目、情報量と網羅性がこわすぎる。
テレビ情報を網羅した週刊の雑誌、もちろん地方版も存在する。
掲載の情報にいちいちひっかかるとおそろしくディープなところまで手を伸ばす羽目になる。ハマりこんだら最後なのだ。
そんなわけで今回の『週刊TVガイド』、いっぱしのコレクターみたいに紹介するけれど、自分は別に本気で追っかけてきたわけではない。
一応何十年もやっているといつのまにかぼちぼち集まって、それなりの数にはなってきた。正直コンプリートといきたいが、先に述べた理由で腰が引けることおびただしい。ヤフオクでも何度も負けている。我ながらへたれなのである。
2 教育ママを教育するアニメや特撮ヒーローの特集号
ただ、何よりここでこの『週刊TVガイド』1973年8月3日号を紹介したいのは、
これがまず当時のアニメや特撮特集号だからだが、それだけではない。その展開のし方が面白い。
この号には、テレビアニメの特集とともに「教育ママに対してテレビアニメの見方を教育する」というテーマがある。正直、ここまで真正面からママを説教している雑誌も珍しい。さすがテレビ情報総合誌というべきか、日ごろちびっこ雑誌を見慣れた目からはまぶしいほどの威勢の良さなのだ。
まず表紙をみてみよう。
夏休みの号らしく、子供たちに人気のアニメ「マジンガーZ」だ。
(ちなみに前年、昭和47(1972)年のこの時期の表紙は「仮面ライダー」)
しかもお目見えしたばかりのジェットスクランダー(テレビでは7月22日の第34話、劇場版では7月18日公開「マジンガー対デビルマン」で登場)を装備して、海から空へ飛び立つ雄姿が何とも良い。
その横に「夏休みマンガ・へんしんスター大特集号」とある。・・・わくわくしない理由がない。
巻頭は4色カラーグラビア3ページ。
仮面ライダーV3、ウルトラマンタロウ、ジャンボーグ9、キカイダー01、レッドバロン、空に飛ぶのはファイアー万、と特撮ヒーローが大集合している。「P・C・B怪獣スイギンラスをやっつけろ!」として、公害怪獣ををみんなで倒すという設定だ。
真ん中にも見開き2ページで4色グラビアがある。
こちらは「仲良しカラーワッペン」とあり、けろっこデメタン、ロボット刑事、流星人間ゾーン、山ねずみロッキーチャック、ど根性ガエル、ドラえもん、おんぶおばけ、サザエさん。切り取って貼ってねといわんばかりにそれぞれ枠で囲まれて並んでいる。
要はこの時期の特撮ヒーロー、アニメの人気者たちを勢ぞろいさせた号である。
ここに夏休み特集「ママのためのマンガの見かた」という1色特集6ページがついている。
表紙には「パパとママのための~」とあるが、特集タイトルは「ママのための~」。
サブタイトルは「制作者の側から語る「教育的」とはなにか」だから、完全に教育ママに照準を当てている。
「夏休みになって、ママはさぞかし頭が痛いことでしょう。子供たちはテレビのマンガ一辺倒。そこでママたち、口をそろえておっしゃる。「教育的なものならいいんだけどねえ・・・」ママと子供は、マンガの見方がちがうようです」
本誌に寄せられたママたちの投書にツッコミを入れ、ママより子供たちのほうがよくわかってる、という論調だが、全作品、制作者たちにきちんと話を聞いてきている。
「科学忍者隊ガッチャマン」「マジンガーZ」「けろっこデメタン」「山ネズミロッキーチャック」「おんぶおばけ」「サザエさん」・・・東映動画の横山賢二さん、竜の子プロの酒井あきよしさん、「山ねずみロッキーチャック」ディレクターの遠藤政治さん、TCJ動画センターの鷺巣政安さん、「サザエさん」脚本の辻真先さん、企画の松本美樹さん、「科学忍者隊ガッチャマン」の鳥海永行さん、という網羅ぶりである。
「・・・そういう子供心を知らないで、ママたちはふたことめにはいうのだ。「こんなくだらんものを、およしなさいよ」 そうかな?子供は「北の家族」に夢中になっているママにいうかもしれない。「ママこんなモタモタした面白くないもの消しちゃえよ」」
「北の家族」はその年のNHK朝の連続テレビ小説。ママたちだってくぎ付けになってるでしょ、という余裕をみせて投書のママの誤字をいじるわ突っ込むわ、テレビ全盛期の情報総合誌、まぶしいほどの剛速球である。
3 その他の特集「すんズレ いたしました」
なお、この号の「すんズレ いたしました」という1色特集は、スターたちの楽屋裏の姿をさらして、なかなかのもの。
「子連れ狼」の大五郎役で超人気の子役・西川和孝のすっぽんぽん姿。喉を押さえてせき込んでいる郷ひろみ。
大きなあくびをしながら、横になっている野口五郎。ランニングシャツすがたの菅原洋一。耳かきしながらリラックスする船越英二。
今なら、こんなの事務所NGだろうという姿ばかり。
巻末には郷ひろみの密着写真もあり、テレビの裏もおもても扱う情報誌という自負と勢いがギラギラしている。
巻末の4色グラビア「怪獣ファイル」は「流星人間ゾーン」に登場した恐獣ガンダーギラスだ。
水爆を越える超エネルギーPS75を飲み込んだガンダーギラスに必殺技ミサイルマイトをぶちこめば、日本がふきとんでしまう。写真はガンダーギラスを前に困り果てるゾーンファイターの姿。
この年、昭和48年2月9日号「ウルトラマンA」のガスゲゴンから始まったこのコーナーも26回目。切り取り方も実に秀逸だ。