セイントクロスを認めない世界は認めない/高橋さってインタビュー

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 3 白夜書房『フィギュア帝国2』が、中古のセイントクロス市場に火をつけた

さってさんは、わたしのために一冊の本を持ってきてくれていた。原色の表紙の絵といい、でかでか打たれたタイトルといい、いかにもやくざな感じのムック本だった。
『フィギュア帝国2』(1998年12月 白夜書房)

 

「おたくにも一冊あると思いますが」とさってさんは言った。
・・・いや、見たことなかったです。
(あとで確認したら確かに我が家は持っていた。しかも数冊!)

表紙では、変な赤色をしたマジンガーZのにせものみたいなヒーローが、片手の剣を振り上げて、ばっさり怪獣を切り捨てている。・・・のけぞる怪獣。

右端には「VINTAGE TOYパワー集中 完全無欠コンプリート」(セイントクロス、サイバーコップ、マシンロボ、変身忍者嵐カード他)と書いてある。左下には特大サイズの文字で「聖闘士聖衣 & クロスフィギュア」(コンプリートコレクション 超スーパー大特集!!)とあった。

そうか、とわたしはそこで気がついた。
この本の主眼は「コンプリート」なのだ。

ご存じのかたは多いのだろう。
無知なわたしが遅まきながら知ったことには、かつて古物屋はたいていこの本を備えていたというのだから。もちろんその品の位置づけを知る第一級の資料として。
参考までにここに目次を記しておこう。

 CONTENTS 
100ページめいっぱいのオモチャに感動!

・聖闘士聖衣シリーズコンプリート
・クロスTOY傑作選
・DX大箱・東映戦隊TOY大集合!
・勇者シリーズTOY
・メタルヒーロー達のTOY世界
・CYBER COP コンプリート
・タカトク・オーガス他、コレクション
・変身忍者嵐カード84点コンプリート
・マシンロボ54点コンプリート
・ROBOT&HERO TOYS
・駄玩具のオイシー味わいに感動!
・ミニ・ミドルソフビだけで12ページのウレシー大特集
・ソフビ&カードSPESIAL!
・ピープロ特撮の世界を、目一杯味わおう!!

最後のコーナーでは、「ピープロ・東映の二大プロデューサーに懐かしい話を聞こう!!」というタイトルで、平山亨氏と鷺巣富雄氏(=うしおそうじ氏)の対談が載っている(インタビュアー・堤哲哉氏)。なんとも豪華な布陣ではないか。

 

当時、白夜書房の田村さんという名物編集長のもとで、えむぱい屋は『フィギュア帝国』『フィギュア帝国2』『まんが帝国』『ビンテージジャパン』と次々に本づくりに参画していた。
『フィギュア帝国』は、雑誌『フィギュア王』や『ハイパーホビー』が新商品の掲載をメインとしていたことから、レトロ系で行こうとの掛け声だったという。

 

 

これでもかとばかりにおもちゃの写真をつめこんだページをめくりながら、わたしは不思議な感慨を覚えていた。ここには網羅することへの一貫した執念がある。

この膨大なおもちゃや資料の多くはえむぱい屋がもちこみ、撮影と解説をほどこしたものらしい。

「だからタイトルが「○○帝国」なんです」とさってさんは言った。

・・・ひゃ、このタイトルって、えむぱい屋から来てるんですか?

「われわれ1号の途中から参加して、最初は別のタイトルが考えられていたそうですが、気がついたらこれになってたです」

なんとまあ。    わたしは絶句した。

「ちなみにこれは田村さんの趣味です」

さってさんは表紙の赤いマジンガーZもどきを指さした。ぱっちなマジンガーは土俗的な怪奇風味を漂わせ、夜の神社あたりで人でも襲いそうに見える。

雑誌のオリジナルキャラをつくるという狙いはよかったんですが、発想がちょっと早すぎました。『まんが帝国』もマンガーマスクってオリジナルキャラを出しまして~」

・・・マンガーマスク?

「はいはい~、やりすぎて転覆しました」

・・・おおう。

 

ともかくもセイントクロスシリーズの全貌は、この『フィギュア帝国2』で初めて紹介された。後発の玩具への影響も含め、クロスのパワーと位置づけが可視化されたのだった。

このとき1998年。「聖闘士星矢」はアニメ化もされ、息の長い人気作品ではあったが、発表されて既に10年以上を経過し、ブームそのものは沈静化していた。
だがこの本が、中古のセイントクロス市場に火を点ける。

 4 シードラゴンスケイル ジェミニのサガの弟カノン

ここで「フィギュア帝国2」の、セイントクロスシリーズのページを見てみよう。

 

 

『フィギュア帝国2』のクロスの写真を見ながら、わたしは尋ねた。

・・・さってさんは、この中でどれかひとつ選ぶとしたら何にしますか?

「ああ、それならこれですねえ」

ためらいなくさってさんが指さしたのは、海皇ポセイドン編の海闘士鱗衣(マリーナスケイル)のひとつ、「シードラゴンスケイル、双子座のサガの弟、カノン」だった。

 

 

・・・へえ、それはまたどうして?
「まずこれ、オブジェが縦バージョンと横バージョンの2通りに変化するんです~」

言われて初めて気が付いた。
なるほど縦のバージョンは普通のタツノオトシゴスタイルだが、横にするとまるで龍が波を蹴立てて泳いでいるようだ。これはめちゃくちゃカッコいい。

・・・ホントだ!ホントだ面白い!!
わたしは興奮した。

 

「普通はみんな、こっちのクラーケンのほうを珍しがるんですよ」
さってさんは、下の「クラーケンスケイル 北氷洋伝説の男、アイザック」を示した。確かに【強レア品として名高いクラーケン・・・】と説明がついている。

「クラーケンには製造の最終番号がついているからなんですが、それを言うならカノンの出荷はクラーケンと同時なんですよ。クロスはだいたい2個ずつ出荷されて、カノンもクラーケンもロット自体は同じなんですねえ」

・・・へええ、じゃあ最終番号ってホント番号だけなんですね。

「ですです。カノンは、オブジェはこんなふうに変化するし、ストーリー的にも重要キャラで、敵の将軍だけど最後まで生き残ってあとで味方になるっていう・・・」

ジェミニのサガの弟カノン。多くの物語の中で、双子という存在は、しばしば光と影の交錯するドラマを生んできた。その上、邪悪な存在でありながら味方になるという葛藤の深さ・・・。さってさんの言葉どおり、やはり最終ロットの主役はクラーケンではないだろう。この双子こそは、大系の製造側が最後の思いを託して出した大きな寵愛キャラではなかったろうか。

 

スペイン語版

セイントファイター

 

セイントクロスシリーズは全世界的に売り出されている。無版権のぱっちもんも出た。

陽の当たる玩具史であれ、ぱっちな裏街道であれ、ともかくもセイントクロスの成功は、後続のおもちゃに大きな影響をもたらした。そのひとつが、クロストイというジャンルの成立だという。

「フィギュア帝国2」は、この後継クロスたちも網羅してそれぞれ説明をつけている。 たとえば、サムライトルーパー。アニメ「鎧伝サムライトルーパー」は1988年に放映開始された。おもちゃは、バンダイのセイントクロス人気を受けてタカラがクロス市場に参入した商品で、正直あまり売れなかったという。

「アニメ自体はそこそこ受けたんですが、おもちゃのほうはすってんてん~」

自分で掲載した玩具なのに、さってさんは容赦なかった。

・・・へえ、どうしてなんでしょうねえ。

「やっぱり地味なんですよ。ぴかぴかしないから」

一撃のもとにぶった斬っている。

「メッキは必須」と言ったさってさんらしい、骨の髄までメッキ愛におかされたセリフではないか。

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