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池田誠の「今週の逸品」第11回『少年マガジン』昭和40年12月26日号

値段の上がる下がるはよくあることだ。
ヴィンテージ漫画は特にそう。復刻ブームで単行本未収録や絶版本が復刻されて大暴落したり、逆にそれでもまだ復刻されない人気漫画ならさらに価格が上がったり、と枚挙にいとまがない。

今回、マニアは大概持っている品で、以前はもっと高かった、というものをとりあげてみよう。高値を呼びすぎて放出する者が増え、かつての超高額から手の届く値段になったこの号の魅力を、今こそ語ってみたいのだ。

『少年マガジン』昭和40(1965)年12月26日号
あああれか、と思い当たる方も多いだろう。そう、「ウルトラQ」のプレビュー号である。

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「ウルトラQ」は、昭和41(1966)年1月2日から7月3日まで全27話(再放映時に「あけてくれ」が追加され、全28話となった)放映された。日常に起こる怪異として怪獣を出現させ、続く「ウルトラマン」とともにお茶の間に大きな特撮怪獣ブームを引き起こした。
その前年12月末(発売は1か月前)、『少年マガジン』は大々的にこの作品をとりあげた。これがなんとも華々しい特集ぶりで、以前からマニアたちの魂を揺さぶってきたのだ。

まず表紙と見開きをいろどるカラーの怪獣たちが目を驚かす。
表紙に、ペギラ、ガラモン、パゴス3体の怪獣の4色カラー写真、ページをめくると見返し2ページの4色グラビアで、パゴス、ペギラ、ゴーガ、カネゴン、ガラモン(本文中では「電波怪獣」)。ガラモンはぬいぐるみを着る途中の写真まで載っている。

つづいて2色特集「ウルトラQの怪獣たち」11ページ。ここでは大きくナメゴン、カネゴン、電波怪獣(ガラモン)、ラルギュウス、モングラー、スダールを扱い、それぞれストーリーを紹介する。
ちなみに先にも触れたがガラモンの項は、まだ「ガラモン」という名が決まっていない。「電波怪獣?」と記されて、ページの下方で「この怪獣に名前をつけよう」と名前募集している。「TBSウルトラQ係へ。しめ切りは12月15日。発表は12月20日午後5時45分TBSハイライトの時間」・・・ガラモンのビジュアルの魅力が当初からおおいに意識されていたことがわかる。

この2色特集では、小枠でタランチュラ(本文中では「巨大な毒ぐも」)、バルンガ、ボスタング、ガメロン(本文中では「超能力をもったかめ」)。ゴメス、ジュラン(本文中では「マンモス=フラワー」)ゴロー、ピーター、ケムール人、ゴーガ、トドラも紹介される。南村喬之や工藤佳、梶田達二、石原豪人らが迫力満点の絵を描いているが、ところどころに小さな写真が挟まれ、ガメロン、ゴロー、トドラは1色ながら写真での紹介だ。

とにかく浴びせかけるような怪獣情報、しかも豪華なカラー版。この号が発売された時のインパクトは如何ばかりであったか。

『ウルトラQ』は昭和39(1964)年9月27日にクランクインした。昭和40(1965)年4月の放映スタートに向けて、『ぼくら』誌は同年3月号(発売は2月)から絵物語『ウルトラQ』の連載を開始した。だが放映は延期され、翌41(1966)年1月まで『ぼくら』は一年近くもテレビ放映なきまま、時折撮影状況を伝える写真を入れながら「ウルトラQ」を掲載し続けていた。ちなみにこの写真はすべて1色だ。

昭和40年10月号、『ぼくら』は表紙に4色カラーのペギラを掲載した。

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放映前の『ウルトラQ』の少年雑誌における4色写真は、『ぼくら』昭和40年10月号の表紙と、この『少年マガジン』昭和40年12月26日号のただふたつ。よく知られるとおり、テレビ放映された「ウルトラQ」は白黒だったから、このカラーグラビアの衝撃と歴史的価値は計り知れない。

ちなみに『少年マガジン』この号は、特集に「ダイヤモンドシリーズ 1965年珍事件怪事件50」を掲載している。扉でまずアフリカの兵隊を襲った巨大怪物、続く「ことしあらわれた珍獣怪獣総まくり」では赤い怪鳥、目玉が三つの怪物、四つ足の怪魚などを次々紹介、そのあとアイス17個を53分で食べたイングラーくんらが登場するのは意表を突くが、ともかく怪物を筆頭に、珍獣、珍人間、超能力者をずらりと並べ、1965年の怪奇と不思議を振り返ったという構成だ。桑田次郎のえがく空想科学絵物語「20世紀の奇跡」も面白い。

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「ニュース速報 ぼく、おにいさんになったよ」の「ぼく」は今上天皇。昭和40年11月30日、現・秋篠宮殿下誕生の記事

 

なお、掲載漫画は、ちばてつや「ハリスの旋風」、森田拳次「丸出だめ夫」白戸三平「ワタリ」横山光輝「コマンドJ」石川球太「牙王」宮腰義勝「宇宙少年ソラン」小沢さとる「エムエム三太」楳図かずお「半魚人」鹿野まもる「大妖虫サソラ」

楳図かずおの「半魚人」もさることながら、ここで特筆したいのは、梶原一騎原作による怪獣漫画「大妖虫サソラ」最終回である。「大妖虫サソラ」は前々号の昭和40年12月12号からの3回連載で、計46ページの短編ではあるが、スピーディーな展開に、息を飲む迫力と心情表現が織り込まれた秀作だ。

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大妖虫サソラ

 

昭和41年1月、『ウルトラQ』放映はついにスタート、終了と同時に今度は「ウルトラマン」が始まったが、この「ウルトラマン」1週間ほど前に実写「マグマ大使」が放映開始されていた。空前の特撮ブーム、いわゆる第一次怪獣ブームが襲来しようとしていた。
『少年マガジン』昭和40年12月26日号には、この大きな波の到来を控えた活気とうごめきがある。それはまさに怪獣ブームの前夜祭ともいうべき様相を呈している。

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