池田誠の「今週の逸品」23~『週刊少年マガジン』1972(昭和47)年3月19日号

今回の逸品は『週刊少年マガジン』1972(昭和47)年3月19日号
1972年といえば、沖縄返還、札幌オリンピック、あさま山荘事件、日中国交正常化、横井庄一さんグアムから帰還などなど、戦後日本の大きな節目となる年だった。

だが見ての通り、この表紙、武者絵である。
弓をつがえながら馬に乗る武将の横に≪立体クローズアップ企画≫とあって「新平家物語マル秘舞台」「超大型歴史ドラマ“新平家”ここが知りたい」と書いてある。
そう、これはこの年放映されたNHK大河ドラマ「新・平家物語」の特集号なのだ。

実は個人的に言って1972年の「新・平家物語」は、自分史上最高の大河ドラマである。
今週の逸品は、少年誌には珍しい武者絵の表紙を擁するこの1冊。
大河ドラマ「新・平家物語」の乏しいアーカイブを補う貴重な資料でもある。
1972年、まさに時代を代表する少年誌だった『週刊少年マガジン』の勢いを心底感じさせてくれる号なのだ。

1 『週刊少年マガジン』1972年3月19日号は大河ドラマ「新・平家物語」の豪華な特集号

1972(昭和47)年放映のNHK大河ドラマ「新・平家物語」はとにかく豪華だった。

主演の仲代達矢はじめ緒形拳、栗原小巻、北大路欣也、佐久間良子、五代目中村勘九郎ほか、大河ドラマの主役級俳優が姸を競い、名だたる俳優が続々と出演した。

当時ちびっこだった自分はそのすごさの半分も理解してなかったが、数々の名演はいまだに思い浮かべることができる。冨田勲の荘厳な音楽が全体を覆い、華麗な衣装と道具が見事な平安絵巻を演出していた。だが残念ながらこのドラマ、カラーの総集編(前後編)とモノクロの最終回しか現存しない。

さてそこで、この『週刊少年マガジン』1972年3月19日号である。
表紙をめくるとまず冒頭、目にクギが打たれたおどろおどろしいテングの上半身像がどかんと登場する。
次のページは見開きでセットづくりの光景、NHK106スタジオで保元の乱のステージづくりにいそしむ大道具スタッフたちの姿だ。
次の見開きは、主演の仲代達矢がメイクで平清盛になってゆく様子。つづいて完成したセットと、裏方たちのそれぞれ奮闘する様子。仲代が殺陣師に演技をつけられている姿も見開きの大写しで出ている。最後はテングにまさるとも劣らぬ仲代の目をむいた鬼気迫る形相。すべて4色の、15ページに及ぶ大特集だ。

当時発行されていた『NHKガイド』(のち『ステラ』。現在休刊)でもここまでの特集はなかった。

 

2 『週刊少年マガジン』の特集から「新・平家物語」現場の空気も視聴者の熱狂も伝わってくる

巻末近くのもうひとつの特集「“新平家”ここが知りたい」1色11ページがまた充実している。
扉の下には「人気抜群の“新平家”について、読者から数々の質問が寄せられている。この特集はこれら全疑問にお答えするNHK完全取材の特ダネレポートだ!」とある。

平氏や源氏の系図、牛車や十二単の値段、牛の出演料、撮影中のハプニング、大道具小道具係の苦労、当時の生活ミニ知識、平家ブームをあてこんだ地方の大騒ぎなど、さすが大学生が読むと言われた『週刊少年マガジン』の取材力である。

「水おけの中であばれている60cm位の大きなスズキ」を出演させろと無茶を言われた小道具係が、奔走したあげく泣く泣く死んだスズキを演技させたとか、武家屋敷をたらいまわしで使うから清盛の館が源氏の館になってるとか、どぶろくにカルピスを使ったが太ると言って五十嵐淳子に顔をしかめられているとか、とにかく情報がこまかいのだ。

ちなみにここでの情報によれば、この年の「京の冬の旅」は「平家物語史跡めぐりと今様白拍子舞鑑賞」だったそうだし、広島の宮島町はフェリーの平家航路を新設し、下関は4年前に中止したはずの「源平まつり」を慌てて復活させたとか。各地の狂騒ぶりが目に浮かぶではないか。

当時ちびっこだった自分がこの号の存在を知ったのは、月遅れの床屋でだった。
グラビアを何度も何度も見返し、順番が来ても手放せず、雑誌をもったまま散髪の椅子にすわったのを覚えている。大学生になって古本屋でこの号を発見したときは昂奮した。とびついて買って、これも繰り返し繰り返し見返して、ついにぼろぼろにしてしまった。そのくらい思い入れの強い1冊である。

3 『週刊少年マガジン』1972年3月19日号のもうひとつの目玉・・・仮面ライダー新1号変身ポーズ

なお、この号の目玉はこれだけではない。
この号には仮面ライダー新1号が変身ポーズをとった写真が載っているが、これが実に貴重なショットなのだ。

この号の発売は1972(昭和47)年3月3日。2日前の3月1日発売『テレビマガジン』昭和47年4月号には、新1号の写真はあるが変身ポーズは載っていない。

ちょうど仮面ライダーが旧1号から新1号へ切り替わる時期だった。
だが直近のテレビを見るに、3月4日放映イソギンチャックの回は、ダブルライダーこそ登場するが1号はまだ旧1号のままだ。本郷猛が初めて変身ポーズをとったのは、3月18日公開の劇場用「仮面ライダー対ショッカー」内のことで、テレビではさらにくだった4月1日、新1号がやっと画面に登場した。

『週刊少年マガジン』よ、仮面ライダー新1号の変身ポーズをこんな早い時期に出すとは、どこまでツボを心得ているのだ。1972年、少年誌の先頭を走る『週刊少年マガジン』の、時代を察知する力が遺憾なく発揮されたこの1冊、実に見事な逸品である。

 

 

 

 

 

 

 

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