『流星人間ゾーン』
・・・という雑誌なのだ。
作品名がそのまま雑誌名になっている。
単体の作品タイトルがそのまま雑誌の名前になるなんて、ウルトラマンや仮面ライダーといった超メジャー作でも見たことがない。
一応『たのしい幼稚園』の増刊号という位置づけだが、どこにもそのような表記はない。あくまでこれは雑誌『流星人間ゾーン』であって、『たのしい幼稚園 流星人間ゾーン特集号』ではないのだ。
だが当時ばりばりに特撮を見ていた者も、この年(昭和48年)の作としてすぐ「流星人間ゾーン」を思い出すことは稀だろう。
今回の逸品は、この「流星人間ゾーン」のタイトルを冠する、不思議な『たのしい幼稚園』増刊号(決して『たの幼』には見えないが)。ちなみに初夏号とあるが、出たのはこの1冊きりで、特に初春号や初秋号があるわけではない。この「流星人間ゾーン」とはいったいどんな作品だったのだろうか。
「流星人間ゾーン」は、昭和48(1973)年4月2日~9月24日放映された特撮番組である。
ストーリーは以下の通り。
防人家は祖父、両親、子ども3人の7人家族。長男の光、長女の蛍、次男の明の三人がそれぞれゾーンファイター、ゾーンエンジェル、ゾーンジュニアという等身大ヒーローに変身する。なお、恐獣と呼ばれる巨大怪獣が登場すると、ゾーンファイターのみ巨大化して戦うことができる。地球を守るため、戦え!ゾーンファイターたち!
この設定を知ったとき、1ファミリーでガロガに対抗できるならピースランド星人全員、いや2~3家族協力すれば自分の星守れたんじゃねえかと思ってしまったが、当時の東宝映像社長であの「ゴジラ」の企画を立ち上げた田中友幸監修だけあって、各話の完成度は高く、ゴジラやキングギドラなど東宝怪獣が登場するのも大きな売りだった。
さて当の雑誌『流星人間ゾーン』である。
表紙(表1)と裏表紙(表4)にはでかでかと「流星人間ゾーン」のタイトル。表紙タイトル脇には「テレビしんばんぐみ特別号」と副題が入っている。
表紙を開くとゾーンマークのシール。「きみもぼくもゾーンのなかま」とある。次は「流星人間ゾーン」ブロマイド、折込口絵のゾーンファイターのポスター。ポスター裏にはゾーンのスーパーカー「マイティライナー」の設計図が載っている。4色8頁のグラビアはゾーンの主題歌やガロガの繰り出す巨獣たちの紹介だ。
まさに「流星人間ゾーン」ずくめのこの号、ゾーン3兄弟をそれぞれ主役にした3本のまんがが載るのも異例だった。「ゾーン=ファイターぜったいぜつめい」を桑田次郎で30ページ、「ゾーン=エンゼルききいっぱつ」をみなもと太郎で18ページ、ゾーンジュニアの「あきらくんと移動マシン」(変身はしない)を太田康介で11ページ。
空想まんがの巨匠、桑田次郎の描く「ゾーン」はここでしか読むことができない。また、みなもと太郎のかわいい女の子がゾーンエンジェルにぴたりとはまっている。他に、『たの幼』特撮系絵物語で知られる成田マキホの絵・構成で、7ページの絵物語「流星人間ゾーン キングギドラをやっつけろ」、ほかに6ページの特集記事など。なおページ隅に、光がゾーンファイターに変身するぱらぱら漫画がついているのも新しい。
さて先述したが、この雑誌は表紙に「テレビしんばんぐみ特別号」と副題がある。これが妙だ。発行が5月22日だから発売は4月下旬、新番組紹介の時期はもう過ぎている。
「流星人間ゾーン」以外にここに載るのは「ウルトラセブン」「サンダーバード」「天才バカボン」「ハゼドン」「白獅子仮面」「コロボックルものがたり」だが、前四者はとっくに放映を終えている。「流星人間ゾーン」と「白獅子仮面」は放映開始して3週間くらいのところ。
だがこの雑誌の「おかあさまがたへ」「この本をよんだおともだちへ」を読むと、製作者側が「しんばんぐみ」に込めた意味がわかるような気がする。
・・・わたしたちが、おかあさまに知っていただきたいのは、『ゾーン』が宇宙人や超人間であることではなくて、”新しい地球人”であり新しい考え方、生き方をもっている人だということです・・・(高橋薫明)」
ここでは「流星人間ゾーン」が家族のつながりを描いた新しい特撮ヒーローものだと訴えている。「しんばんぐみ」とはまさにこの、新しいタイプの特撮番組ということではないか。
最後に、この異例の雑誌がもつ大きな隠し玉についても述べておきたい。
昭和48年夏の東映まんがまつり、この雑誌の発行日から2か月後、発売日からは3か月後に公開された「マジンガーZ対デビルマン」のコミカライズが掲載されているのだ。わずか9ページではあるがオール4色!
飛行する機械獣やデーモン一族に苦戦するマジンガー、デビルマン登場、ジェットスクランダーによるマジンガー初飛行など、ツボを押さえた迫力ある展開となっている。
しかも桑田次郎の「ウルトラセブン」と「流星人間ゾーン」が両方読める。
なんとも凄い雑誌である。