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池田誠の「今週の逸品」第5回「アパッチ野球軍」最終回(『少年キング』昭和47年6月18日号)

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「ナレ死」という言葉がある。
ドラマの登場人物の死がナレーションだけで描かれることをいう。

確か5、6年前、大河ドラマ「真田丸」の織田信長の死がナレーションだけだったのについて、ナレーション担当の有働由美子アナがNHK朝の情報番組「あさイチ」で「信長ほどの人物の死をナレーションで・・・」と他の出演者からいじられたあたりから使われ出したと思う。
誰それが死にました、と告げられるだけのナレ死はなんともあっけない、駆け足の終了だ。

 

その「ナレ死」じゃないが、これは「ナレ完」じゃないか。
そう思ってしまうのが、少年画報社刊ヒットコミックス「アパッチ野球軍」第6巻(最終巻)だ。

原作・花登筐(はなとこばこ)まんが・梅本さちお「アパッチ野球軍」、主人公堂島剛は山奥の猪猿村の子どもたちを集めて野球チームをつくった。そのアパッチ野球軍が数々の勝負を経て強くなり、甲子園大会3度優勝の名門モラール学園から試合の申し込みをされた。

だがそれは、アパッチ野球軍の選手、材木、網走、モンキーをモラールに入れようという企みによるもので、三人の親にはモラールの野球部監督からひそかに手付金が支払われていたのだ。

モラールとの試合に気が進まない剛、それに同調する大学やオケラ、ハッパと、試合を主張する網走たちとでチームは分裂する。けっきょく剛は翻意し、大学たちを残してモラール学院との試合へ向かう。

そして試合当日。

「きょうの試合はおれたちゃばかばかしくて やる気がおこらねえのが正直な話よ・・・」と網走。「きさまもアパッチ野球軍を解散させるつもりなら けんめいにやらんこった」

まさにアパッチ野球軍最大のピンチ。

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ページ上半分に大きく球場のコマ。
わーわー と歓声がわいている。
「まもなくわがモラール学院対アパッチ野球軍の試合が開始されます!!」
「礼っ」
「両チーム試合前のあいさつを終えました!」

これが単行本「アパッチ野球軍」最終巻の最終コマだ。

・・・こりゃ何じゃ?

ちなみにこのページ下半分はぎっしり文章で埋まっている。

「球威のない網走の球は、毎回安打をゆるし・・・4回をおわってすでに10対0」、ここに剛が怒りの鉄拳を加え、網走たちが改心してふたたびチームワークがよみがえる。以下、追い上げ、ヒット、もろもろ、試合終了、「がんばれアパッチ野球軍!!」・・・

試合経過はすべて文字。そして終了。圧倒的「ナレ完」なのだ。

少年画報社刊ヒットコミックス『アパッチ野球軍』全6巻は、少なくともコミックパークから復刻版が出る(平成17年)までは非常に入手しにくい品だった。
やっと見つけて高値を払って購入する。むさぼるように6巻まで読む。最後のシーンにたどりつく。

こりゃ何じゃ。

連載当時は単行本など買えず友達から借りてところどころ読んでいた。アニメも時々見たかな。おとなになって全話読み通したくて頑張ったらこれだよ。「アパッチ野球軍」ってこんなラストだったっけ?

気になり始めてしまったぼくは、その後、球場を俯瞰するこの最終コマが『少年キング』昭和46(1971)年12月12日号の途中部分だったことを発見。とりあえず昭和46年残りの号を手に入れたが、46年ではまだストーリーが終わらなかった。よし、じゃあ昭和47(1972)年の何冊かで連載終了だな。

しばらくして佐藤書房の目録に『少年キング』昭和47年一括が出品され、頭の何冊かでいいのにと思いながらも注文した。届いた1年分の分量に若干後悔しながら読み始めてびっくり。
年明けの1月か2月で終了すると思っていた「アパッチ野球軍」は、なんとこのあと半年以上も続き、連載終了は6月18日26号。ストーリーだって一波乱も二波乱も待っていて、ゆうに単行本2冊分はいけるではないか。

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ではなぜ最後まで単行本に載らなかったのか。そこにはどうもアニメ放映がかかわっているようだ。

アニメ「アパッチ野球軍」は昭和46年10月6日から昭和47年3月21日まで放映された。
ヒットコミックス「アパッチ野球軍」第1巻は昭和46年12月1日発行

つまりこの単行本は、アニメ放映開始後その人気にあやかって発刊されたのであり、連載開始1年半も経過してからのことだった。そこから猛ペースで発行するも、アニメの進みにまったく追いつかず、翌年3月で放映が終わると発行ペースもダウン。第6巻発行日は昭和47年8月1日。この巻所載の話が連載されていたのは8カ月も前、放映終了からも4カ月以上経っている。当の連載も1か月以上前に終了し、一部の読者はともかく、発行側のテンションはだだ下がっていたことが推測される。

とはいうものの、駆け足どころじゃないこのラストの切り上げ方・・・苦労して買ってわくわくしながら6巻まで読んできてこれかよ。「ナレ死」なんて「ナレ完」の足元にも及ばねえよ。

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『少年キング』最終回扉

 

本当の連載終了、『少年キング』昭和47年6月18日号「アパッチ野球軍」最終回を読むと、物語スタート時のすさんだ雰囲気とは打って変わったさわやかさにつつまれる。これはアパッチ野球軍の卒業式の話なのだ。実に感動的な最終回で、欲を言えばこの号だけではなく昭和46年12月12日号から29冊分の『少年キング』を読んでみるとまた感無量だ。

「アパッチ野球軍」をナレ完にしてはもったいない。

 

 

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