古物として世に出まわらないモノには2種類ある。
ひとつは「出ないモノ」。もうひとつは「出さないモノ」である。
「出ない」と言っても一定数存在するものならば、出まわらないのは「出さない」人がいるのだ。また「出さない」といっても、もともと良く出るものならばいくら出さなくてもいずれ遭遇するだろう。
要は「出ない」「出さない」双方あるから見つけることができないのだが、どちらの要素が強いかはモノによっておのずと分かれている。
過去2回の「今週の逸品」は、どちらかと言えば「出ないモノ」だった。
1回目の「スパイメモ」は消耗品のかたまりだ。これを手にしたちびっこたちは、ほぼ確実に「水に溶けるメモ」を水に溶かしシールをそこら辺にべたべた貼り、諜報活動にいそしんだ。その結果このスパイメモはおそろしく現存率が低い。
2回目の秋本帆華サイン入り生写真「喜怒哀楽」は、「鯱詣(しゃちもうで)」リーフレットでのサイン率が抑えられていた上、メンバー6人の「喜怒哀楽」4種類をそれぞれサイン入りでコンプリートと来れば、これもまた揃えるのが難しい。
だが今回の「今週の逸品」は、そこに圧倒的な「出さない意志」を感じさせる品なのだ。
昭和41~43年、「ウルトラQ」「ウルトラマン」「ウルトラセブン」、それぞれの漫画化作品を掲載した雑誌としては次のような品々があった。
『現代コミクス ウルトラマン』(現代芸術社 昭和41年11月~昭和42年8月 増刊含めて全12冊)
『講談社テレビコミックス ウルトラセブン』(講談社 昭和42年12月~昭和43年5月 全6冊)
これらは作品を連載していた雑誌からの転載ではなく(『講談社テレビコミックス』のみ一部転載)、ここでしか読めないウルトラ物を載せていた(現在は復刻あり)。
どれもあまり見かけない品だが、先の作品に「キャプテンウルトラ」「サンダーバード」などを加えた『TBSコミックス』ほど「出ない」わけではない。
だがこの中の『講談社テレビコミックス』第4集、ここには禁断のあの作品が載っている。
そう、あのスペル星人の回なのだ。「ウルトラセブン」第十二話放映を忠実に漫画化したもので、問題となったあの姿もそのまま描き出されている。
かつてスペル星人は、写真はもちろんイラストも高騰した。今は少し値段が落ち着いてきたが、5円引きブロマイドでも雑誌でもこれを掲載した品はすべて高値を呼び、姿ひとつに万の値段がついた。そういえば、ぼくは友だちと「1万円」のことを「1スペル」と言っていた。
現在、この漫画そのものはそれを転載した同人誌などで読むことが可能である。
だが現物にはなかなかお目にかかれない。他の号と発行部数は変わらないはずなのに、この第4集の値段はオークションなどでも他の号の5倍はする。ちなみにその写真を載せた第6集の値段は2~3倍。
もともとこの『講談社テレビコミックス』自体、他の2誌『少年ブック・コミックス』と『現代コミクス』に比べて市場で見つけにくいものだった。
だがこの第4集の出にくさと来たら・・・。
第4集を包んでいる凪のような静けさを感じるたび、ぼくは思う。これは「出ない」というより、持っていて、出さないのだ。一度手に入れた人が手放さないのだ。
ぼくは苦労して手に入れた第4集をひらき、克明に描かれたスペル星人の漫画をつらつら眺める。
自分は見てはいけないものを見ていると思う。それは子供の本能のようなものだ。