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池田誠の「今週の逸品」第1回 スパイメモ

スパイメモ(1969年(昭和44年) サンスター文具)

 

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1969年の或る日のこと、友人が学校にスパイメモを持ってきた。
周りにはあっという間に何重もの人だかりができ、友人がめくるたび歓声があがった。ぼくたちは放課後いっせいに近所のおもちゃ屋や文具店へ走ったが、どこも予約が必要。店の在庫はからっぽだったのだ。

 

1969年(昭和44年)、サンスター文具から発売された「スパイメモ」は、おそらく同社にとって未曽有の大ヒット商品となった。子供たちは争ってスパイメモを求め、予約なしで買えなくなるまで、そう日数はかからなかった。

下地はあった。1962年「007は殺しの番号」(リバイバル公開時は「007/ドクター・ノオ」)が公開されると全世界的に大ヒット。当時米ソの冷戦もあって、スパイはぼくたちにリアルな存在だった。

この「殺しの番号」を皮切りに、007シリーズはつぎつぎ映画化される。主人公ジェイムズ・ボンドが作品ごとに世界各国をまわり、その地で大活躍することも話題となった。
1967年公開の「007は2度死ぬ」では、ボンドがついに日本上陸。丹波哲郎、浜美枝ら日本人俳優も出演し、日本中がスパイブームに沸いた。1965年公開のスパイドラマ「0011ナポレオン・ソロ」(米では1964年公開)も人気上々。1969年前後には秋田書店『冒険王』『まんが王』の2誌で、スパイグッズのもらえるキャンペーンが展開された。

さて肝心の「スパイメモ」とは何か。

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ついている帯には、「サンスタースパイメモ」そして「消える手帖」とあり、さらに、内容が書かれている。
帯記載の順に、内容をみてゆく。

〇「スパイ団バッジ」 ・・・表紙のビニールカバーにかかってるこれか。

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〇「スパイ・シール」・・・表紙をめくるとカバーのところにはさんである。どくろ、拳銃、指紋、コウモリ、クモ、矢印のシール。
〇「スパイ団員証」「モールス信号説明書」「そっき符号説明書
シールといっしょにはさまれている。(現物は「モールスしたじき」「そっき符号」と題がつけられ、おもてうらになっている)
〇カバー裏に「世界のピストル図鑑

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〇「水に溶けるメモ
帯にあった「消える手帖」はこれのこと。水に溶けるなんて当時は興奮したけど、トイレットペーパーだよね。
「写しメモ(ノーカーボン紙)」「連絡メモ」
「連絡メモ」の扉には、数字を使った秘密の文章の作り方がこまかく記されている。

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3種類の紙がついていて、それぞれ用途が違う

 

何しろ豪華なラインナップだった。

そしてぼくは、父親がお土産に買ってきてくれるという奇跡的なめぐりあわせで、幸運にもその後これを手に入れることができたのだ。

だが当時のぼくはこの貴重なお宝を、弟相手に「おまえのひみつをしっている」と≪水に溶けるメモ≫に書いて水に溶かす、などといった愚行で無駄使いしてしまったのだった。

おそらく当時のちびっこはほぼ全員そういう使い方をしたのだろう。このスパイメモは完品現存率がおそろしく低い。

今回ここに載せたスパイメモは、ぼくが大人になってから長い間さがし続けて、やっと一回だけめぐりあった完品だ。

 

ちなみにぼくは、当時パチものにもひっかかっている。
おもちゃ屋のばあさんが「スパイメモは150円だけど、うちでは100円で、しかも予約なしで売るよ」と言った品にとびついたのだ。
それがこの「スパイ手帳」

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「予約なしの100円だよ」にとびついた

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スパイメモと似た付属品がぞろぞろ出てくる。目玉の「水に溶ける」紙や、ノーカーボン紙もついている。ただし、いかんせん、ちゃちい。

 

このあと、サンスター文具は、「新スパイメモ」「スパイライセンス」「スパイパック」「ザ・スパイ手帳」など、名前を変えながら何度もバージョンアップし、スパイメモは同社のヒットシリーズとなっていったのだった。

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