たかはしちこ(アップルBOXクリエート)/ マンガ復刻・同人誌 5

高橋さんは今年69歳になる。
「六十代になったとき、これからは何があるかわからない年齢に突入したなと思いました」

体が動かなくなるかもしれない。自分がいつまでこれを出し続ける気力がもてるか、と考える。
だが、出せそうだと考えてすでに資料を集め終わっている作品が、今の時点で20~30点はあるという。

「もっと増えるかもしれません。そういうのをクリアして、もうやることたいしてないや、という状態で復刻は完結したい。自分で納得できるところまでいって、自分できりをつけられれば」
「あとは、自分の作品、毎年新作で2本くらいは出してますので、それを完結するところまでいければ、それが同人誌の決着ですねえ」

高橋さんの代表作「ミーコメタモルフォセス」は現在も展開中だ。男性にウケるよう描いていたものが、時間がたつにつれて本当に可愛くなってきた、と高橋さんは言う。
作家としての高橋さんは天性のストーリーテラーである。
「こういうのが描きたいな、というのがあって、描きたいシーンに向かってゆく。そのシーンに行けば結末まで一気に行ける。自分の考えたとおりのストーリー進行ができます」

知識と経験と能力と、人とのつながりと、他者に対する貢献と、いうなれば自分の全てがここにある。同人誌をつくるのは生きるということそのものだろう。
そういえば、どんな執念があってこれほど長く続けているのですかとわたしが訊いたとき、高橋さんはこう言った。
「別に執念というほどのこともないですよ。これは空気のようなもので」
いつもの穏やかな、淡々とした口調だった。
「吸っていなくては死んでしまう」

 

 

 

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今も続いているかは知らないが、かつて国文学未完資料の会というものがあった。埋もれた文献を発掘してきて翻刻し、仲間うちで配布する。
高橋さんの復刻を知ったとき、わたしはその会のことを思い出した。漫画はこの先、埋もれているものを営々と掘り起こす人たちの対象になってゆく。

「今は話題にもならないけれど、いつどうなるかわからないですよ。こうやって出してあれば、いずれ小さい出版社が手をつけてみようという気になるかもしれません」
この同人誌を資料として誰かが使うでしょう、と高橋さんは言う。

著作権は絶対に必要なものである。だが次の時代の豊かな実りが前代の遺産の活用の上にあるならば、知的財産を資料として活用できるようどれだけ整備しうるかは全く別の大きな課題であるだろう。
版権を独占する企業がしばしば情報を封印する中、現在、同人誌の世界がその任を担っている。

 

今回も形になった。高橋さんはほっとする。
生みだそうとする意志を形にして、ほんのつかの間の安堵を味わう。
いつかはきりをつけねばならない。だがもう少し、この場に居続けようと思っている。

趣味という旗印のもと、どれほど多くの無償の労力が世界を繋いでいることだろう。
誰もがいつかは去ってゆく。あとには巨大な山が残っている。

< 2018年5月 >

巴里夫( )

福井英一

泉ゆき雄

 

東浦美津夫