佐々木大(仮名)/プロ野球サイン 4

野球カードは、ベースボールマガジン社のものが一般的だが、ほかにキャンプで選手だけが持ってる配布用カードや、イベントで5人に当たる特別のものがあったりする。
サイン獲りはそのカードを揃えるところからスタートする。

質にこだわる佐々木さんは、雨の日だとカードを持ち歩くのもはばかられる。

サインボールにもひとつひとつ袋掛けする。

保存に乾燥剤を入れていいボールと悪いボールがあるらしい。

「80年代90年代の投げ入れ用のふにゃふにゃのボール、あれは乾燥剤入れるとダメになるんですよ。UVカットのボールケースがいい」

ご覧あれ。

わたしはこれらのボールを袋から出してくださいと言うにしのびなかった。

 

 

サインを書いて貰う用のペンも厳選する。
色紙には水性ペンで貰う。
ボールにはさくらペンタッチ。速乾性で、擦れる心配がない。
ユニホームはマジックインキ。あれは洗濯しても落ちない。マッキーだと薄くなる。

最高のモノが欲しい。

こすれたり、歪んだりしたサインじゃなく、パーフェクトなものが欲しい。

「それは選手だっていろいろ事情はあるでしょう。
でもこちらも、それだけの準備をし、覚悟をして、獲りに行っている」

「なぜって、サインは魂だから」

故 木村拓也

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サインは魂だ、と佐々木さんは言う。

カードを、色紙を差し出しながら、「魂を入れてください」と思っている。

新しいユニホームなどに直接サインを書いて貰ったりするのも「ぼくたち、売りませんから。あなたを応援してますよ」・・・そういう気持ち。

「自分が貰ったサインを持ってると、応援も奮い立つでしょう?
それは、そのモノに選手の魂がこもっているからだ」

だからぼくは、基本的にサインは自分で貰いたい。
状態もぴかぴかで欲しい。
その線から魂が光ってくるような。

サインは特別なモノ、奮い立つようなモノだから。

 

さて、佐々木さんがサインを貰う現場に戻ろう。

トラブルは日常茶飯事、予定通りになど進まない。

いきがる奴、割り込む奴、暴動寸前も何度もある。警備員はいない。選手は完全プライベート。

その中での一瞬の接触。

声をかけ、カードとペンを差し出す。

< あなたの魂を入れてください >

佐々木さんは言う。

「サインをもらう瞬間、在るのは生身の選手と自分だけ」

存在するのは、それだけ。