Mr.H/ 蒐集家 2 電動ペギラ・雑誌『少年』・アメコミ・缶キャラ・キーホルダー

(6)

 掘り出し物をいっぱい持ってくる青年がいる。そういって顔なじみの店主がHさんを他のコレクターに紹介するようになった。そこからまたモノを入手するルートが拡大した。ヒーローズにブリキのおもちゃを持って行き、それと交換でマルサンの電動怪獣ペギラを入手したのが90年代初頭のこと。そのときペギラは18万円だった。懐かし屋で電動ブースカ6万円。
友達と旅行へ行って、海沿いをドライブする。Hさんは外を見ながら「店はねえかな」ときょろきょろしてしまう。おもちゃ屋があったらそこに入って、何時間も入りっぱなし。いったん入れば最後まで見なきゃ気が済まなかった。 「水着のお姉ちゃん見に行ってるんじゃねえんだ」とHさんは言う。
友人たちはナンパをしに行っている。Hさんはひとり、一心不乱におもちゃハンティングをしている。おかしいよお前の頭は、友達はそう言ってHさんからどんどん離れていった。
「おまえは健全じゃねえ。お前と行っても楽しくない、って友達みんないなくなっちゃった」
 Hさん青春真っ盛り、だが水着の女も紅葉も温泉も眼中になかった。ホテルにも帰らずモノを漁った。

(7)

 90年代前半、Hさんはワンダーフェスティバルで或るプラモ屋さんと知り合った。これがHさんの問題多き人生に、さらに拍車をかけることとなった。

 東十条の店を訪ねてゆくと、店先に古い雑誌がずらりと並んでいた。60年代からさかのぼって、戦前戦後の雑誌やふろく、月光仮面の表紙など、見ている内にHさんはわくわくしてきた。「なんじゃこりゃあ。こんなの見たことねえぞ。こんな世界があるのか」

 久しぶりに来ました。盛大なビビビビビ。

 実はプラモ熱が若干醒めかけていたのだ。ここでHさんは古い雑誌に開眼し、『少年』『ぼくら』、もっとさかのぼって『少年倶楽部』のハンターと化す。そこから発展して貸本へももぐった。「鬼太郎夜話」「妖奇伝」・・・90年代前半、まんだらけが最初の目録を出し始めた時期だ。Hさんは古雑誌の店を夢中でまわり出した。

(8)

Hさんは言う。「みんなは子供の頃買っていたもの、欲しくて買えなかったものを買っている。でも俺は子供の頃買ってないものを買っている」

 子供時代満たされなかった飢えから出発するコレクターは多い。当時買ってもらえなかったとか親にお宝を捨てられたとか、そんな経験から蒐集にのめりこんでゆく。

 本当は仮面ライダーとマジンガーZを買えばよかったのだ。ライダー物と超合金がHさんのちびっこ時代の夢だった。だが心底ビビッときたのは、それらではなかった。

 他の人の集めたモノを見て、なんだろう、こんなのがよく集まるなと思う。

「なんだこれは?なんだか俺にはわからないけど、なんかいいな。そうなるともうおかしくなっちゃう。自分でも止められない」

 懐かしむのではなく、未知のものに憧れた。こんなのがあるのか、という発見の驚きにいったん巻き込まれると、もうどうにもならなくなった。

「イベントで仲良くなって遊びに行って、いろんな人の家を見る。こんなによく集まるな、極めるってすごいもんだな、って思う。人が珍しいモノを持ってると欲しくなる。コレクションを見ると欲しくなる」 

 東十条の店主は興味関心の広い人で、アメコミのコレクターでもあった。棚にバットマンやスーパーマン、さらにディズニーの絵本なども並んでいるのに影響され、Hさんは英会話を勉強して一路サンフランシスコへ飛ぶ。アメコミを物色するかたわら、向こうのおもちゃ屋でバットマンの人形をほじったり、アイディアルのキャプテンサイボーグシリーズをしとめたり、ああもう、どんどん沼地へ落ちてゆく。

(9)

お前は面白いよな。あっちやりこっちやり。しかも高いものしか買わねえじゃん。

Hさんのことを人はそう言う。

Hさんは、やるならそのジャンルの中で最高のモノが欲しい。だからいつもそこでの最高峰を狙った。

「でもやってるとわかる。ホントにすごいモノはなかなか出てこない。それに高い」

コレクションは或る程度まで行くと、じっと待たねばならない時期に入る。根っから行動派のHさんは待つということが苦手だった。そうしてる内、だんだん飽きてくる。だがそのときは次のビビビが来ていた。てっぺんをいくつか残しておいて、次のモノを買うため前のモノを手放した。

ビビッはいきなり来る。いきなり「いいな、いいな」が始まって、駄菓子屋の骸骨のキーホルダーなんかがいつのまにか80個ぐらい溜まっている。他の人のコレクションを見て、自分の知らなかった世界に憧れた。 

怪獣にもビビッ。Hさんは2期怪獣ブームの世代だが、第1期ブームの方が新鮮にうつった。ウルトラQ、ウルトラマン、ウルトラセブン(昭和41年~43年)。第1期の怪獣図鑑を見たりすると、ぞくぞくした。

古いノートにもビビッ。仮面ライダーカードは堤哲哉さんの同人誌を買って、番号の面白さにビビッときたが、諸事情あってこの分野は見送った。

雑誌『フィギュア王』の缶キャラコレクション(6号)を見て、その方面にも激しくビビッ。超合金の復刻「超合金魂」は一時期予約して買っていたが、これはだんだん飽きてきた。洋モノのスパイダーマン、バットマン。コーラ瓶などを集めていた時期もある。

(10)

 80年代末、バブルの季節にデビューをし、水着の姉ちゃんに目もくれずひたすらプラモを探している内、世間は不況といわれる時期になっていた。ちょうどその頃、最初の電動怪獣ペギラを手に入れた。Hさんのデビューからペギラまでの道は、日本経済が大きくふくらんではじけた時期と重なっている。この間、Hさんはすさまじい勢いで店を駆けめぐり、モノを入手する自分の方法を確立した。

 1994年、TV「なんでも鑑定団」が始まった。たかが子供の玩具と思われていた品に意外な高値がつき、昔のおもちゃへの関心は高まってゆく。1996年、ミクロマン復刻。97年、超合金魂発売。ショップをまわって掘り出し物を探す人がどっと増え、どんな地方のおもちゃ屋さんでも目がひらけてきた。雑誌などではさかんにおもちゃの利殖的な価値がうたわれた。1996年8月、宇宙船別冊『怪獣・ヒーローお宝鑑定カタログ』(朝日ソノラマ)刊行(1998年に増補改訂版)、1998年1月、血祭摩利監修『究極プラモデル大全』(白夜書房)刊行。ページを埋める数々のオモチャにはひとつひとつ値付けがされている。不況知らずといわれるサブカル業界は、いつしか投機の場所となっていた。              

 Hさんは動き回る。Hさんの動きは世間の流れとちっともシンクロしない。わたしは懸命に時系列を追おうとするが、Hさんのモノへの欲望は連鎖して、無数に枝分かれしながら広がってゆく。同時多発的な大小の噴火のように問題は刻々と発生し、事態はどんどん混沌としてくる。Hさんは人の問題まで引き受ける。東で万博グッズを探していると聞けば万博グッズを買い、西でカードを探していると聞けばカードを買う。もはや何が欲望の対象で何がそうでないのか、傍目からはわからない。

 

 知人A氏は証言する。「Hさんはぼくの進化形です。ぼくは一応要るモノしか買いませんが、Hさんは要らないモノも買うのです」

しかし本当のところ要るモノとは何か。そして要らないモノとは何か。

なにしろわかる価値が多すぎる。捨てられないモノ、見過ごせないモノがありすぎる。

 肝心なのは、全てはモノのためにあるということだ。乏しい懐で欲しいモノを入手するにはどうしたらいいか。大問題を解決する根気と才覚と行動力でHさんはずば抜けていた。一度ビビッとなるとすさまじい速度でそのジャンルを習得し、コレクターのところへ会いにいった。知識と手間を総ざらいに使ってモノを買い、それらをまわしてビビッを買った。だからHさんの理解する範囲は驚くべき広さに及ぶ。燃えるようなエネルギーで、コレクションを積み上げ、崩し、積み上げ、崩し、新しい山へ向かってころがりながら進んでゆく。