田中康隆(キンキーズ)/カルビーカード 3

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田中さんは笑顔で言う。

「こちらがあまり調べてしまうとお客さんに逆にしらけられますので。場を提供しているって感じですねえ」

キンキーズは、すべてに伴走してきた。
オーソドックスな番号違いにも、ラッキーカードにも、記号版にも、そして色違いにも、それぞれの客の挑戦に寄り添ってきた。

「採算合わないでしょう」とわたしはそっと言った。
「店を続けてられるのが奇跡みたいです」と田中さんは言った。

それでも好きだから、自分も面白いと思うから、根っから紙モノが好きだから、お客さんたちに併走し続けている。

田中さんは、自分の大事にしているお宝を見せてくれた。
山勝の5円引きブロマイド「クレージーゴン対ウルトラセブン」(筆文字)だった。
迫力ある珍しい構図で、5円引きブロマイドの最高傑作との呼び声高い1枚だ。

「売ってください」というキンキーズの広告に、売りたい客でなく買いたい客が殺到したのは、たぶん必然だったのだろう、とわたしは思う。

その広告に本物の覚悟や執着があり、その匂いが、他の者の覚悟や執着を自然と引き寄せたのだ。

 

 

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田中さんのこだわりは、あくまで現場で売るということだ。
それは現在、どんどん難しくなってきている業態である。

「今どき、店舗販売。敵はネットオークション。とにかくあの世界はダメです」と田中さんは言った。

値段の付け方にこだわりはありますか?と訊くと即答で返ってきた。
「あります。ネットには左右されないということです」

現在、インターネットで右から左に軽くモノを流すことが、どれだけの歴史を断ち切っていることか。

「まんだらけさんも店舗販売は大変だと思いますよ。同じ店をやっている者として、そういう親近感があります」と田中さんは言い、「それに、ネットでは色がよくわからないんですよねえ」と笑顔で付け加えた。

 

確認用ルーペ

 

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この店の中央には、仮面ライダーアルバムを無造作に積みあげた、うずたかい山がある。ざらざらっとふれて手触りを楽しむこともできる。

仮面ライダーカードにハマったことのないわたしにもわかる。
これは魔の山だ。
カードを愛した者ならば、おそらく誰もが見た瞬間、取り乱さずにはいられない。この山を見ただけで子供返りしてしまった客もさぞ多いだろう。

 

「これ見ると、自分でもウッとなります」と田中さんは言う。
自分自身、このアルバムの山を見た瞬間にアドレナリンが上がるのだという。
「子供の頃なら心臓とまってます」

田中さんはどうも仮面ライダーカードは仮面ライダーアルバムに並べないとアドレナリンが上がらないのだそうだ。
「よくある9枚綴りのファイルではダメ。いつでもこのアルバムに戻ります」

 

古びたライダーアルバムに、丁寧に仮面ライダーカードを並べて、めくってみる。そうすると、たとえばジュースを飲むのを我慢して1枚のカードを買ったような、子供時代の暑い夏の日がよみがえってくるのだろう。

 

 

 

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「ああ、いま思い出しました」
田中さんは不意に言った。

「お客さんが集め終わったら、自分が集められると思ってた。みんな終わったら自分が・・・。だから早く終わってくれと思ってました」

お客さんに押し切られて自分のコレクションを売らざるを得なかったという話をしたときも、田中さんはこう言っていた。
「どんだけ入れたら満足するんや。さっさとやめたかった。やめさしてと思っていた」

その田中さんに、そばにいた常連さんが口を挟んだ。
「いや、その先が見つかっちゃったから、終わらない」

1万枚はラフです、と言ったお客さんだった。

「一生終わらないですよ。終わりたくない」

すでに産地と色違いというフィールドが広がっていた。
よそならただのカスカード。でも全く同じ色がない何百枚何千枚の世界で、まだ見たことのない色を求めている。

終わらせたくない。

終わりたくない。

ずっとカードをさわっていたい。

ここまで聞いていてわたしは思わず涙が出てしまった。

みんな、終わらせないようにしているのだ。

永遠に暮れない夏の日を生きている。

何よりも田中さんその人がそれを生きようとしている、とわたしは思った。

 

 

 

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いま、紙と印刷は岐路に来ている。

コンピュータの普及で、紙の雑誌や書籍は電子書籍に押されて低迷し、印刷そのものも、紙にインクを乗せるタイプから次々にデジタル印刷へ切り替わった。おそらくこの分野ほど、日進月歩の勢いで刷新されてしまったものも少ないだろう。

おそろしいスピードで進む印刷業界で、はるか後方に取り残された旧印刷の紙モノたちは、まさに滅びゆく前代の遺物ともいえる。

だが、時を重ね、成熟してきたからこそ、遊びはいよいよ面白い。

時代を席巻したカルビーのカード。そこから立ち上がる情報性に踏み込み続けて、現在、この店は、1970年代印刷・流通の現場を見通す、まぎれもなく最もエッジの効いた立ち位置にある。
この時代に店舗という場を維持してゆく絶え間ない闘いがそれを支えている。

新しい発見は溢れている。ちびっこたちはますます胸とどろかせ、探検の旅に出かけてゆく。
好きという気持ちに導かれ、その無数の探検に随伴してゆくキンキーズの深い情熱と、時代にあらがう誇りとが、寝屋川を比類のない聖地としている。

 

< 2017年3月 >

 

キンキーズ

大阪府寝屋川市八坂町25‐5   072-838-8620

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