キンキーズ・田中康隆/ カード類(カルビー他)2

そこへちょうどお客さんがふたり来店した。年かさの男性と少し若い男性と、どちらも相当な常連さんらしく、もの慣れていて風格があった。

「まんだらけさんでバイトしてはる」と田中さんがわたしを紹介すると、常連さんのひとりが言った。

「今までまんだらけはお正月とかに、どかんとカードを売り出すときがあったんですよ。それが3年前あたりからなくなった。どうしてですかね」

・・・ええ? わたし、末端だから全然わからないです。サーラにあるのかなあ。

サーラはまんだらけが千葉につくった巨大倉庫だ。

「あれを楽しみにしてた人が多いんですよ。まんだらけに、カードをがんがん出してくれるよう言ってください」

そうそう、ともうひとりのお客さんも相槌を打つ。
わたしはちらっと田中さんを見た。なんと田中さんも、そうそう、とうなずいているではないか。
「そうですよ、まんだらけさんにカードを出してくれと言って下さい」

そんなあ・・、とわたしは困ってしまう。

田中さんは語る。「二、三年の間、仮面ライダーカードがちっとも入ってこなくなった時期がありました。そのあとは突然、毎日のように入り出して。波が激しすぎて、どうなってるのかわかりません」

この店と歩みを共にして、浮沈も共有してきている常連さんが、そばで苦労話を聞いている。

 

新潟トウッ!

松江トウッ!

 

北海道名古屋トウッ!

 

 

キンキーズのホームページには次のように書いてある。

「カードにこだわって17年
70年代のカルビー仮面ライダーカード、カルビープロ野球カード、さらに買い取りNo.1宣言!!!」

そして、探索中の仮面ライダーラッキーカードの番号と買い取り価格が列挙される。No.255のS(極美状態)120万円を始め、さすが老舗、迫力の高額が並ぶ。

ホームページ内には、この店に通う仮面ライダーカードコレクターたちの、白銀の絶峰にいどむような鬼気迫る試みも書かれている。

「エラーカード(深い!!)ラッキーカード(コンプリート不可能!!!・・・)記号の完全コンプリート(達成者ゼロ!と思います)さらにその記号のヴァリエーション違い!!超極美コンディションでナインポケット9枚づつ!!あげくに同じ番号でファイル1冊!!・・・とても終りがあるとは思えないすさまじい境地へと突っ走っておられます。頭が下がります」

その、すさまじい境地へ突っ走る客たちに、キンキーズは常に伴走してきた。
この店のお客さんは長年のつきあいが多い。最初からの客がずっと続くのだという。

聞けば、仮面ライダーカードに産地を入れるのは、客主導で始まったことなのだそうだ。

「或るお客さんが言い始めて、書くようになったんです。他のお客さんもそれに触発されて」

やっている内にだんだん田中さん自身も興味が湧いた。
そうするといろいろわかることが出てきた。
印刷所のクセとか、封入した場所とか。

たとえば倉敷と奈良の一部では全く同じ印刷が出る。文章の一部に黒い点がつくのだという。県境も微妙な場所だ。岐阜の隣に名古屋がある。当然、双方共通するカードが出る。だが富山の場合、基本は関東系だが石川や岐阜に隣接する地域ではレアな地方版が出てくる。
V3カードでも、鹿児島と北海道と関東で同じモノが出る。
そういう分布図が少しずつ出来てきた。

「カードを売りに来たお客さんに、どこで、どんなふうに買いましたか、と訊きます」と田中さんは言う。
大都市圏内は特にこまかく訊くという。
「小遣いは幾らくらいでしたかというのも訊きます」
・・・ああ、箱買いしてる可能性がありますね、とわたしは言った。
小遣いをふんだんに貰っていた場合、相当まとまった量が同じ出処ということになる。

自分の出身地で集めますという人もいるそうだ。埼玉の人が埼玉産のライダーカードばかり買ってゆくとか、静岡産で1セット組むとか・・・。 わたしの亭主は静岡出身だ。田中さんによると、静岡のカードは富士川を挟んで東西分かれるらしい。

「だから何なんだ?って話ですわ。他だと過剰在庫扱いです」
田中さんは笑った。
「でもみんな、面白がってます」

 

1971年、カルビーはカードを1枚ずつ付けた仮面ライダースナックを発売した。カードは全国の子供たちを熱狂させ、それはひとつの社会現象となった。
カードを刷っても刷っても間に合わない。大日本印刷はいろんな印刷所に仕事を回した。地方の小さな印刷所も動員された。地方の小さな小さな、ものすごくヘタくそな印刷所までもが、こぞって仮面ライダーカードを印刷した。

田中さんは言う。

「東日本は比較的大手の印刷所が請け負ったんです。だからそれほどたいした違いは見られない。でも西日本は面白い。ホントに末端の印刷所が手がけたものがまじってる。こっちの予想のつかないカードが出てくる。まだ発見がある。見たことのないモノがある」

「トレーディングカードというのは、どうも企業の手のひらで泳がされている気がするんですよ。エラーもなにもすべて計算ずくでコントロールされている感じがしてしまって」

それに比べて昔のカードには、赤という色ひとつにしても予測不能なさまざまな差異がある。
その紙モノの内蔵する情報性は、まさに「立体的」だと田中さんは言う。

仮面ライダーカードから遅れること約二年、1973年にカルビーは、野球カードを付けた「プロ野球スナック」を発売した。
ライダーカードのときの印刷のノウハウ、印刷所のネットワークが、そのままプロ野球カードに受け継がれた。

「だから両方やるお客さんも多いんですよ」と田中さんは言う。

プロ野球カードは、地方版が西日本の発行のため、西の比重の大きさが際立つ分野らしい。

 

キンキーズのホームページを再び引用しよう。

「昭和40年代のカルビー仮面ライダーカード、V3カード、プロ野球カードは番号、記号(プロ野球は年代)、コンディション、販売地域(九州、四国、中国山陰、近畿、東海地方、北海道で子供の頃から持っておられるワンオーナーものがベスト!カードの流れで査定額がUPします)が、査定のポイントとなります。カードの紙質、インクの色合い、コーティング等を調べております!!ぜひ、ご協力お願いいたします!」

仮面ライダーカードとプロ野球カード、両方やって見えてくるものがある。
特撮と野球というジャンルを越えて、それはおそらくカルビーというジャンルなのだ、と田中さんは言う。
文面のミスプリその他はもちろん、赤という色味ひとつ、隅っこについた黒い点ひとつ。色合い、紙質の共通、印刷のクセ、それらはこの時代にこういう印刷所の産物がこういうネットワークで流通していたという、まさしく「立体的」な情報をとどめている。
それを掘り起こしてゆくことを「考古学」と呼ぶお客さんもいる。

色違い

10

普通は綺麗なカードを買おうとする。傷みのない、角がピンと立っている珍しいカードに金を出す。

でもこれは、そういう1枚しか持たない世界ではない。同じものをいっぱい持ってるところから話が始まるのだ。見比べて、ここが違う、そっちも何か変わっている、何が違うんだろう、と面白がる。

「なぜ同じカードをいっぱい?と言われても、この色違いますから」

だから仮面ライダーカード、たとえばナマズギラーの赤をくれ、青をくれ、という話になる。たとえばカメバズーカの色違いをグラデーションで揃えたりする。
紙と印刷というものを突きつめたら、目の前になんという沃野が広がっていたことか。

そんなわけで田中さんは常連さんからなじられるのだ。
「前から頼んでたじゃないですか、この色味を」とか、「あの色ほしいって(自分は)言ってましたよね」というふうに。
色で予約されても~、と田中さんは切ない顔をする。

なんて素敵なことだろう。
この世には、まだ見たことのない色がある。
変なんが出た。こんなんあるんや。
やめられない。
ここにはまだまだ発見があり、探検と開拓の喜びがある。

だからみんな大量に持っている。
「1万枚はラフです」
常連のお客さんは平然と言って笑った。驚くべきことにそれは自明のことらしかった。1万枚からきれいに整理してデータを取っている人もいるという。それは3万枚くらい持っている人だそうだ。

あぶない、かわいい、何万枚の世界。
成熟と狂気の入り交じる世界。
これが仮面ライダーカードの買い方の進化形。