今入重一/ 横山光輝作品 4

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1986年、江口さんや堀井さんと一緒に、今入さんは横山光輝クラブを立ち上げ、同人誌『オックス』の発行を始めた。

江口さんのリストは、1981年、川崎健夫さんとの共同作業による『横山光輝初期作品集』別冊解説として発表された。
また堀井さんの探求リストは、1992年『横山光輝の世界』に結実し、翌1993年、まんが資料センターの山本やすひこ氏は、これを原形として図版や新出資料を入れ込んだ『横山光輝の軌跡<作品リスト>』を出版した。この内容をカラー化した『別冊太陽 横山光輝マンガ大全』があとに続く。図版の多くは、今入さんのコレクションから出たという。
探求リストを源にした一連の活動によって、横山作品の全体像を把握する土台がつくられていった。

 

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またそれとは別に、関西で横山光輝ファンクラブという活動があり、同人誌『DOLPHIN』を出していた。今入さんは3号からそこに参加し、1982年、自らの企画で影丸特集号をつくる折インタビューのため初めて横山光輝と対面した。

その後、今入さんは時折横山邸を訪れることになる。そうして横山ファンによる活動と作者横山光輝とをつなぐ役割を果たし始める。

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高橋誓氏によるアップルBOXクリエートは、特に昭和30~40年代の漫画作品の精力的な復刻で知られ、その分野の大御所的存在となっている。ここで復刻された横山作品の充実ぶりには目を見張るものがある。
『横山光輝名作集』全51巻及び別冊5巻。

まんだらけマニア館の国澤氏は、今入さんをインタビューして次のように述べている。
「横山先生自身が全集の発行は固辞されていたということは広く知られていますが、クラスの作家の商業出版の補完的意味を持つ作品群をシリーズ化して自費出版で発行したというのは日本のマンガ出版史上で見ても希有なケースです」(2017年資料性博覧会パンフレット)

このアップルBOXクリエートと横山光輝との繋ぎ役を果たしたのが今入さんだった。先のインタビューでの今入さんの言葉を引用しよう。

「今でこそ未単行本化作品が出版される時代になりましたが、あの当時は先生もそういった作品を本にはしないという考えだったようです。復刻の了承がいただけるのは原稿の存在しない作品という条件付きです。さらに○○と××と□□は駄目ですよと最初に釘をさされたのはありますけどね」

「印刷と編集にかかる費用は2017年現在よりも遙かに高額で大変でしたが、結果的に横山光輝名作集が復刻活動の柱になったおかげで、アップルBOXクリエートが様々な作家の復刻へと乗り出していく原動力にもなっていったはずです」

このシリーズは、光プロ(横山光輝プロダクション)未所持の作も含んでおり、横山作品の抜けや漏れを埋めるものとしてプロダクション側からも高く評価されているという。
長きにわたり多産であった巨大な作家の全容をつかむのは難しい。復刻は、作品の普及と同時に、今後の横山研究の理想的な環境を生み出す基礎的文献の整備でもある。
今入さんは自分のコレクションから復刻用の原稿を提供するかたわら、マンガ家本人との間に入り、その仲立ちをしつづけた。

(アップルBOXクリエート発行『漫画市』14号、20号)

 

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横山光輝作品で一番最初に何をあげるか。
鉄人28号を好きな人がいる。三国志をあげる人もいる。バビル2世を好きな人もいる。魔法使いサリーから入った人もいる。
巨大ロボ、対戦もの、魔法少女、SF、歴史もの。
横山光輝が作ったものは、個々の作品であると同時にしばしばそのジャンルそのものだった。横山は今わたしたちが自然に用いているエンタテインメントの骨法を残して去っていった。

横山の死後、その書斎には「何かあったら今入さんに訊くように」との書き付けがあったという。

今入さんは光プロとファンの活動をつなぎ、アップルBOXシリーズのあの山脈のような作品集刊行を支え続けた。復刊ドットコムの復刻をサポートし、横山光輝生誕80周年では出版イベントを成功させた。
現在、横山光輝「闇の土鬼」の着物の模様を「土鬼模様」と名付けてツイッターで発信する4eknight11氏がいる。「伊賀の今丸」のアカウントで忍者もののツイートをする今入さんは、4eknight11氏に模様の資料を送って盛り上げた。今回の戸田公園での集まりでは氏による土鬼模様の研究発表がされたが、それはマンガ表現が文献資料として新しい段階に来ていることを感じさせる。

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「闇の土鬼」(『横山光輝マンガ大全』より)

 

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横山光輝はヒット作を数々生み出す巨人であったが、その立ち位置は手塚や石ノ森ほど派手ではなかった。
過去を振り返るより目の前の原稿を描きに描く作家で、多産な分暗がりに沈んだ部分も大きかったと思われる。そういう難しさに加え、特に出版をめぐるファン活動はしばしばデリケートで制約的なものとなる。ファンと作家側の関係性において横山光輝作品の場合ほど理想的な例も珍しい。

横山光輝のファンたちには、高度なリストをつくった江口さんや堀井さんがいた。アップルBOXクリエートの高橋さんはじめ、志ある復刻者たちがいた。すぐれた探究能力をもち、何かしたいという意欲に溢れる人たちがいた。
ひとり、小柄で温厚で、友人のつくったリストに目を見張り、清水の舞台から飛び降りる思いで3万円の貸本を買い、自分はマニアになったと実感するひとがいた。その出だしは手探りだったが、欲しいという思いは揺るぎなく、わき目も振らず買い続けて斯界屈指のコレクターとなった。手に入ったモノを素直に喜び、及ばぬことを苦にせず、他の人たちの才能を認め、いつしか横山作品を世に伝えるかなめの存在となっていた。

 

「誰もがあのひとのファンになる」
わたしに今入さんを紹介してくれたひとはそう言った。
モノを集めることに憑かれた第一級の蒐集家が、人と人とのあいだでそれぞれの活動をひらく柔らかな人格として立ち続けることはまれである。
横山ファンの活動は、マニアという存在が次代へ何をしおおせるかを語っている。
そして今入さんの生き方は、蒐集ということが不思議な無私のあかるさに近づいてゆく様子を語っている。

< 2017年12月 >