『冒険王』 (少年月刊誌)をひたすら語る /池田誠 4

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「とにかくこの号には、無駄なページがひとつもないのです」

池田さんは熱弁をふるった。

「まず全体を見渡して「特写」というものが見あたらない。「特写」とは、制作側が宣伝のため撮影会にカメラマンを呼んで撮らせた写真のことで、『テレビマガジン』などはしばしばこういうのを使う。だがこの号のカラーグラビアは、すべてカメラマンが実際の撮影現場に出向いて撮ってきたものです。正直いって『冒険王』ほど、現場の空気を伝える写真をふんだんに使用したものはありません」

「次に図解特集。これがまたカラー15ページにわたる分量を誇り、見事なものです。グラビア写真と図解の強さ。それを徹底して突き詰めているのが、この号の凄みなのです」
「たとえばテレビマガジンは教育雑誌という顔を持ち、教育評論家の書いた「お母様に」なんてページが入ってたりするのですが、ここにはそんなぬるいものは入る余地がない。ただただ迫力ある現場の空気感と、視覚に訴える圧倒的な情報量があります」

 

 

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この72年別冊秋季号は、いろいろな次元において、まさしくターニングポイントに当たっていた。

 

「たとえばこの号で、初めて表紙のタイトル「別冊冒険王」の下に「映画テレビマガジン」という副題がつくようになります」と池田さんは言う。

 

「以後この副題は継続し、翌73年6月号からは副題のほうが「別冊冒険王」というタイトルの文字より大きくなります。そうしてこれ以降、この雑誌は「別冊冒険王」ではなく「映画テレビマガジン」と呼ばれるようになり、それが74年2月号の休刊まで続きます」

 

 

「またこの秋季号のあと、冬季号をはさんで翌年の春季号から、季刊だったものが月刊化し、判型もB5判からワイドなAB判に改められます。そのターニングポイントの痕跡が、こんなところにも見えます。ちょっとここを見てください」

 

池田さんは、72年秋季号の表紙見返しをひらいてみせた。

 

「大けん賞募集」

クイズとアンケートに答えると変身サイボーグが当たるというものだ。
ページの下部に「問題と応募のきまり」がある。

「問題と応募のきまり」

問題

仮面ライダー、超人バロム・1、サンダーマスクのうち二段変身するのはどれでしょう。

①仮面ライダー ②超人バロム・1 ③サンダーマスク

アンケート

別冊冒険王の映画テレビマガジンを1年に何冊出したらいいと思いますか。

①4冊 ②6冊 ③12冊

応募のしかた

こたえは必ず官製ハガキに番号で書いてください。そしておもしろかったまんがを1つとアンケートも忘れずに書いてください。

 

ホントだ!わたしはぎょっとした。この編集部はこんなところでさりげなく、なんというシリアスな調査をしているのだ。

 

「翌年の春から年4冊が12冊になるのは、やっぱりこのアンケートが関係してるのかなあ」とわたしは訊いた。

 

「よくわかりませんが、生き残るための『冒険王』編集部の模索が見てとれますねえ」

池田さんはしみじみと言った。

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池田さんとわたしは、別冊『冒険王』72年秋季号の表紙をつらつら眺めた。

目立つピンク色の地に、仮面ライダー、サンダーマスク、変身忍者嵐、快傑ライオン丸、超人バロム・1が居る。小さくゴジラやデビルマンの顔もみえる。ヒーローたちをこれでもかというほど詰め込んだ、絢爛豪華な表紙だった。

「いかにも冒険王らしい、ごちゃっとした感じでしょう」池田さんは嬉しそうに言った。

「ピンクだし」とわたしは付け加えた。

「ピンクだし(にこにこ)・・いてッ」

表紙の派手さからすると、本体は意外なほど薄い。
以前は本誌と同じくらい厚かったが、この前の夏季号から半分くらいの厚さになったのだという。オリジナル漫画をほとんど削り落とし、特撮やアニメの情報に先鋭化すると、こんなふうになるのだろうか。
それは岐路に立った雑誌が、模索しながら生きようとしている姿だった。絢爛豪華でありながら一抹の不安も感じさせる。

それでも池田さんを魅了したこの号のすがたは、見ているわたしをも惹きつけた。この雑誌は生き延びようとする気迫に溢れている。それが人の心を打つのだ。

「にもかかわらず!」と池田さんは突然声をあげた。

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「にもかかわらず!」と池田さんは声をあげた。
「ぼくは!当時!子供時代!この本の存在すら知らなかったんですよ!」

 

「へえ、子供の頃持ってたわけじゃないんですか」と言うと、池田さんは悲痛な表情になった。

 

「そうなんだよォ。ぼくはちょうど仮面ライダーカードにいちばん力を入れていた時期だったから、臨時収入がなければ雑誌は月刊誌を買うだけで精一杯だったの!」
「ああ、暗黒の10月発売ですね」
それでせちがらい懐事情を綿々と話していたのか。
「ホントそうなんだよ。ぼく以外にも買えないちびっこが多かったんじゃないかなあ。発行部数も少なかったと思うよ。これはぼくたちが知らない内にひっそりと本屋から消えていっていた号なんです」

池田さんは大事そうに72年秋季号を撫でた。

 

 

 

 

要するに、池田さんは大人になってこの号と出会った。

池田さんは語る。

「ぼくは当時、この本のことを何も知らなかった。この号がかつて本屋に並び、自分の知らない内に消えていっていたかと思うと、何ともいえない気持ちになるんです」

「これを見ると当時の自分が生きていた空気をそのまま思い出す。この号はそれを感じさせるパワーがみなぎっている」

「大人になって出会ったのに?」とわたしは訊いた。

池田さんはすぐ答えた。「いや、たぶん、大人になって出会ったから」

思い出すのは、おそらく美しい郷愁の光景ばかりではないだろう。
仮面ライダーに夢中で、金欠で、ガツガツかつえていた子供時代。得られなかったモノはあまりにも多く、満たされなかった思いが胸に残る。手に入れたかったのに入れられなかったモノたちをこの手でつかむことへ向かってゆく、それが池田さんにとっての大人になるということか。

まあちびっこ魂と言えば言えなくもないような・・・。

ひとりになって72年秋季号をめくると、ひらいたページでは仮面ライダーが怪人たちに取り囲まれながら戦っていた。

……参ったねえ池田くん。

きみは、ぜんぜん大丈夫じゃないね。

 

 

 

 

 

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