池田誠 / 『冒険王』 1

別冊『冒険王』1972年秋季号

池田さんが1971年以降の『冒険王』を集める上で、最後の一冊だったのが、この別冊1972年秋季号だった。

池田さんは語る。

「確か2000年か2001年、まんだらけのオークションにこの号が出されたんです。それまでそのオークションで、72年秋季号が出たのを見たことがなかった」

 

「それでどうされました?」とわたしは訊いた。

「とりあえず20万円つっこんだねえ」

「全然知りませんでした」

「そりゃ言いませんでしたから」
池田さんは、当たり前でしょ、という顔をした。

「なるほど。それで?」

「18万円で無事落札いたしました」

正確には18万100円。まんだらけオークションは、次点の客の入札額に100円足した金額が落札額となる。

若干はしょりたがっている気配なので、ここはひきとめて詳しく訊く。

このとき池田さんは、とことん行く気でいたのだった。どれほど探しても出てこなかった別冊『冒険王』1972年秋季号がついに現れたのだ。これを逃したら一生自分の手には入らないのではないか。池田さんはそれを恐れた。運命の神様に自分の覚悟を試されているように感じたのだった。

そりゃ言えないはずだ。
まあ、今さらびっくりしないけどね。

 

 

『冒険王』は、1949年~83年(『TVアニメマガジン』と改題して84年まで)、秋田書店から発行された少年雑誌である。テレビの特撮やアニメの世界を柱とし、それらをマンガ化した作品をふんだんにとりあげた。通常の月刊誌のほか、年4回の別冊号(春季・夏季・秋季・冬季)(66年~74年)、年2回の増刊号(夏休み号とお正月号)を出していた。

 

この別冊『冒険王』1972年秋季号の完本を、池田さんは前述のまんだらけオークションで18万円で落札した。その後、まんだらけの中野店で8万円で買った。ブロマイド欠4万円を友人の代わりに買ってやったこともある。ヤフオクで5万で落札したり、まんだらけ梅田店で切り取りあり2万5千円を即買いしたりもした。ほかにも状態の良いの悪いのたくさん持っている。
さりとてそれで商売するのかといえば、そんな気もないらしい。そもそも買い手がつかないようなボロボロのモノまで大事にとってある。

「とにかくそんなに傷んでない完本が10万円、もしくは切り取りありが3万円くらいで出たら、ふらふらとまた買ってしまいそうな気がします」と池田さんは言った。

「ちょっと伺いますが、なんでそんなに欲しいんですか?」

これはコレクターの周囲にいる者のおそらく永遠の問いだろう。

「ちびっこ魂ですかね」と池田さんは答えた。

わたしは疑り深い目で池田さんを見た。
バカを言え。同じ雑誌を何冊も何冊も買うそんなちびっこがいるものか。

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別冊『冒険王』72年秋季号。

これが運命の一期一会。覚悟を決めてまんだらけオークションに臨んだ池田さんの執念は、おそらくその後の『冒険王』市場に飛び火した。

池田さんは語る。

「そのときまで『冒険王』にそんな派手な高値がつくことはなかったんだよ。でもそれがきっかけになったのか、そのあと同じまんだらけのオークションで、V3特集の『冒険王』73年夏休み増刊号がいきなり46万円まで跳ね上がった」
「はああああ、まあわかります」
「その値段で落札というのは、要するに40 万以上入札した人間がふたりは居たということです」
「もしや片方はご本人じゃありませんか?」
「ううん、ボク入れてないよ。ボクもその号がそんなに高くなるなんてびっくりして、売るぞてめえと思いながら見てたもん」
「既にお持ちだったと」
「そりゃ持ってましたよ」
池田さんは胸を張った。
「ほほう。しかしこの72年秋季号、何冊も見るのでそんなにたいしたものだとは思っていませんでした」
「ぼくがいっぱい持ってるものは、基本的に世間には出回っていないものなのです」
池田さんはさらに胸を張り、ふと気が付いたように「すみません」と言った。
「?」
「すみませんごめんなさい」

ここで詫びてくるとは池田さん、イメージ戦略もはなはだしいが、そんなものは100年遅いと心得よ。以下、粛々と進む。

(73年「冒険王」夏休み増刊号)

「別冊『冒険王』秋季号についてですが、そもそも秋季号そのものが、あまり市場に出てこないのです」と池田さんは言った。

「年2回の増刊号は、なんだかんだ言って市場に出まわります。夏休み号は8月中旬の発売だから、ちびっこはお盆で田舎に帰って、おじいちゃんおばあちゃんに買ってもらう。お正月号は、発売は12月中旬だけど1月まで売っていて、これはたいていお年玉で買うことができました。
この別冊冒険王も、夏季号や冬季号は夏休みとお正月の発売だし、春季号なら3月発売で、進級~春休みという臨時収入シーズンにあたります。
ところが秋季号は10月発売です。ちびっこが何のイベントも当てにできない暗黒の時期じゃないですか。いちばん金欠なときの発売だから、そもそもあまり買われていないんじゃないかな。出てくる数も限られてる気がします」

秋季号が希少なのはよくわかった。

もうひとつわかったことがある。
こづかいを軸に回転する池田少年のせちがらい一年である。
どうやら遠足や運動会というものがほぼ意味をなさず、臨時収入が最大のイベントという子供時代を送っていたらしい。
こんな子がおとなになって、自分の金を持ったらどうなるか。