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「これ、石黒昇さんが描かれたソノラマ文庫『キャプテン・シャーク』シリーズの表紙ボツ原画です。実はこんな絵も描ける、本当にすごい人だったんですよ」

「石黒さんは、あのつげ義春さんたちと一緒にマンガを描いていたんです。そういうのを捨ててアニメに行った。すごいなあと思います。
それがアニメの魅力?でも茨の道ですよね。小説は自分で書ける。マンガも自分で描ける。でもアニメは共同作業、絶対いろんな人の意思が入ってくる。プロデューサーとかスポンサーとか、総監督にも原作者にもテレビ局にも気を使う。おかみのチェックは厳しいし。全部の意思を総合して、その中で自分をどこまで出せるかっていうせめぎあいがある。

石黒さんは抑制の利いた江戸っ子で、自分はあれやったこれやったって絶対に言わない。でも今、大家になってる人たちが若手の頃みんなあの人のスタッフになっている。なぜこの人たちがここまで化けると見抜いたのか、すごく興味があった。
石黒さんは終始一貫して、かれらは勝手に育っていったんだ、って言う。だけど話を聞くと、『ヤマト』のときに爆発シーン、自分で絵の具をこうやって、セルに指で塗ってみたりしてる。『エヴァ』や『彼氏彼女の事情』で庵野さんが実験アニメみたいな表現をやったけど、そういうことを石黒さんが率先してやっていた。それを若いスタッフたちにも自由にやらせてたってのが見えてくる。

出崎さんとか富野さんとかが大家になって、自分の好きなものをやっている。でも石黒さん、あなたはやらない。どうしてですか、と訊いた。考えてみたらリーダーアルバムがないんじゃないですか、って。
そしたら、ジャズでアドリブを利かせるくらいが好き、っていう言葉が来た。あそこは良いお答えをいただいたと思います。音楽をやってらした石黒さんに、あの質問はぼくが音楽を少しかじってたから言えた。すべての経験が役立って、このためにやっていたのかというような気もしました。

ぼくが石黒さんのスラップスティックを見たいと言った理由ですか?
もともと、石黒さんがなぜ虫プロに入らないで『怪盗プライド』をやってるテレビ動画に入ったかっていう疑問があって。『怪盗プライド』ってのは、海外物みたいな楽しいアニメなんですよ。だから石黒さんは、なんかこう、のほほんとした、気の抜けたようなギャグマンガみたいなのがやりたかったんだろうな、っていうのがあった。ぼくもそういうのは大好きだったから。石黒さんも、ああ、やりたいですねえ、っておっしゃって。そこも、話が合いましたね、みたいな感じでした」

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「音楽も好き、本も好き、ノンフィクションにもはまった、プロレスも好き、ミーハーなんですよ。星まことがミーハーでなくなったら星まことじゃない。
今ホントに、なんていうのかな、ようやくあちこちでやってきたことが無駄じゃなかったって感じになってきたのかな、どうだろう。

絵には人生が出る。にじみ出る。
アニメは集団の作品だけど、それでもその集団作業を突き抜けて出てくるものがある。それを九州の片田舎で感じ取っていた。テレビの画面を通して通信教育を受けているみたいに。
絵を通し、モノを通して、明確に人物をめざす。そうしてその人の歩んだ航跡を真空パックのように残しておきたい。

好きな言葉があるんですよ。城山三郎の本のタイトルにある、「粗にして野だが卑ではない」という言葉です。どんなに貧しくてもどんなに賤しくても、品位を失っては駄目だと思う。ぼくは粗にして野かもしれないけれど卑ではありたくない。それは常に思っています。
けっきょくそう望むような人が好きなんです。そういう方たちに、会いに行っているんです」

*

ここで星さんの語りは終わる。あとはこのインタビュー本『伝説のアニメ職人(クリエーター)たち』をお読みいただきたい。
自分は何者なのかという問いは、星さんにとって大きな意味をもっているように見受けられる。
探究者だ、と星さんは名乗る。これはあまり一般的な表現ではない。普通は研究者という言い方になるのではないか。
星さんの名乗りには、自分の立ち位置は「研究者」のような第三者的なものではない、自分はただ、少年時代の憧れの世界をより深く知りたい、突き詰めたいだけなのだという思いがにじんでいるようだ。
だから評論家でもない。かつて自分を揺さぶったものが何だったかを正確に知ることは、そこに意味をつける行為とは別だと星さんは考える。そして語るときは、映画解説の淀川長治や小森のおばちゃまのように、どんな作品でもその魅力を語りたい。
自恃と潔癖の入り混じるその自己限定は、一方で、対象との距離や方法論に対する星さんの自覚の圧倒的な強さを示すものでもある。

冒頭で述べたとおり、1999年、『図説テレビアニメ全書』で、早くもテレビアニメ史を俯瞰する教科書のような一冊を手掛けた星さんだったが、それからほぼ二十年経った現在、歴史とそこに生きた人々をさぐる星さんの仕事は、いよいよ余人の追随を許さぬ領域に入ってきているようだ。
だが、今さら言うまでのこともない。これらすべてはあの、若者の可能性を見抜く不思議な力をもっていたひと、『宇宙戦艦ヤマト』の監督が、すでに見抜き、予見していたことであろうから。

 

(2018年

<了>

 

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