「あのインタビュー連載で特徴的なのは、けっこう背景画家のところへ行くってことだと思います。みんなアニメといったらキャラクターに行くけど、実は背景ってものすごく大事で、要するに画面を見たとき、もうその7割8割は背景なんですよ。その背景をどういう感じにするのか、ギャグ調にするのか、リアルにするのか、色調はどうするのか。

これ原画です、『ポールのミラクル大作戦』っていう作品の背景原画。『ナウシカ』とか『ガッチャマン』の美術監督の中村光毅さんの美術ボードです」

「じゃあこの世界では夜はどんな雰囲気になるか?」

「こういうふうになります。裏山に木があって、もくもくと暗雲がたちこめて、ベルト・サタンがやってきて、ニーナをさらいに来るわけですよ。こういう背景があって世界ができる。そこにアニメーターがキャラクターを載せてゆく。

アニメの美術監督がどれだけすごいかっていうと、ふつう絵描きってのは風景を見ながら描きますね。でもこの人は頭の中に街がある。コンピュータが出来る前から三次元なんです。
ガンダムのホワイトベースなんて、誰も知らないですよね。でも廊下がどうなってて、光がどう当たってるとか、すべて美術監督が決めてるんです。ライティングがこうだから、艦内でも暗くなってるから、こういうふうに描くとか、頭の中に360度できあがっててどの角度からみてもいい。それで歩いていけるんですよ。その艦の中を。

監督の頭の中にある世界を、美術監督が共有して具現化する。言語化して、何百人といるスタッフに全部説明する。大変なことです。朝はこの色で、昼はこの色で、夜はこの色で、家の中はこういうふうにって。
けっきょくぼくらが見ているアニメの、色の世界ってのは、やっぱり背景がメインなんだろうなって思う。背景画がなかったら、どんなにいい絵が動いたってダメなんです」

「今はどうなんでしょう、コンピュータの時代だから、ちょっと描いたら画面上で角度をずらしたりとか、できるでしょ?でもあの頃はみんな手作業だった。これね、普通の絵画と違う点は、全部ピンが合ってるんです。設定のため綺麗に描かなきゃならないから、全部ピンが合っている。しっかり、リアルに描いてますよね。デジタルカメラみたい。
これは30年くらい前の絵です。その頃から美術監督ってのはこうやってたんです。匠の技です」

 

「金山明博さんはね、絵がむちゃくちゃうまいんですよ。
たとえば『闘将ダイモス』やったとき、原画家が描いた絵を、『ボトムズ』の塩山さんが作監修正した。それを金山さんが総作画監督で見る。
もとの絵も十分うまいんです。それを塩山さんが直して表情が引き締まる、これを金山さんが目だけ直した。
ほんとに微妙な差なんです。でもね、それで若者の不安な目になる。目のここの差、これで一矢の感情が出るわけです。十代の若者の微妙な揺らいでる感じが全部出る。

金山さんのすごさはここなんです。微妙な感情表現。ちょっとした髪の毛とか目尻とか、それだけで変わっちゃう。それを金山さん、平気でやっている。毎日何百枚も修正しなきゃならないから時間がない。ちょっとここの線だけ直す。するとどうなるか。一矢が決意の顔になる。表情が全然違う。これが作画監督の力です」

「これは金山さんが描いた『ダイモス』のヒロイン、可憐なエリカなんですけど、目を閉じている、ああ、気を失ってるんだなってわかる。お嬢様なんだなってすごくわかる。
『ダイモス』ってのは聖悠紀さんがデザインした、すごいおしゃれなキャラクターなんだけど、そこに金山さんが、なんていうか、なま身の体を与えた。キャラクターに乗り移ったような、色気というか生きてる絵というか。それが金山さんの絵なんです」

 

「大工原章さんはあの当時あまり取り上げられてなかった。でもあの人がいたから今の東映動画があると思う。大きな争議などでどんどん人が抜けていったけど、大工原さんはずっと残っておられた。だからぼくはインタビューで、柱、柱、って言い続けたんです」

「これ、大工原さんの絵です。めちゃくちゃうまいですよね。古本屋で買った『探偵王』、表紙もぼろぼろになってたけど、目次をみると「黄金バット」の永松健夫とか「エイトマン」の桑田次郎も描いてる。大工原さん、ほれぼれするような絵を描いてますよ」

うしおそうじさんのお話でいちばん面白かったのは、やっぱり東京ムービーがなぜ出来たかっていうこと。あのインタビューが出るまでは誰も訊いていなかった。東京ムービーってのは、うしお先生が『ビッグX』の原作権をピープロでやるからといって手塚さんの許可貰って取ったのに、現場が反発してできなくなっちゃった。それで困ったTBSが慌てて作ったのが東京ムービー。で、なにしろスタッフがいなかったから、社長の藤岡さんがあちこちスカウトしまくって。虫プロのアニメーターとかもみんなバイトで描いてたみたいですね。『あしたのジョー』の監督で有名な出崎統さんは、そのとき藤岡さんと仲良くなって、縁ができたらしいんですけどね。

 

 

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