堤哲哉 / キャラクターノート 1

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 堤哲哉さんがノートを買っているという話はここ数年聞いていた。

 堤さんは仮面ライダーカードの第一人者である。1970年代初頭全国のちびっこたちを熱狂させたカルビー仮面ライダーカードを体系化し、その価値を決定づけたのは堤さんだった。1980年代、仮面ライダーカードは十把一からげで売られていた。それらを分類し全体像を明らかにしてゆく作業は、個々のカードの価値を世に認知させる闘いでもあった。当時蒐集が最終段階に至っても或るカードがどうしても見つからなかった。14局の46番。それはずっと闇の中に沈んでいて、コレクターからはその存在すら疑われていた。

 堤さんはテレビ番組「開運!なんでも鑑定団」で全国の視聴者に呼びかけた。当時としては考えられない高額で1446番を買うと明言し、ついにそのカードを世に引きずり出した。世間は度肝を抜かれ、仮面ライダーカードの値段は跳ね上がった。そしていま、その人の目の前にはノートがある。 

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「ノートはむずかしい」と堤さんは語る。

 昔からノートへの興味は持っていた。子供時代はウルトラQやウルトラマンのノートを買ったし、仮面ライダーカードを求めてショップめぐりをするときもしばしばそのそばにノートがあった。堤さんにとってキャラノートはずっと気になる存在だった。

 だが、ノートはむずかしかった。

 まず圧倒的な量の多さ。そしておそるべき多種多様さ。漫画、アニメ、特撮、タレント、映画関係、テレビ関係……。とにかく話題になったものはすべてノートになっている可能性がある。キャラクターノートは簡易でその分アバウトで、同じキャラでも描き手によって天と地ほども顔が違った。堤さんはノートを集めながらずっとイメージが定まらなかった。集めても集めてもどこに何がひそんでいるかわからない。その得体の知れなさは、あの仮面ライダーカードを整理した第一人者をもひるませるに十分なものだった。

「ぼくなんかよりノートをいっぱい持ってるひとは何人もいますよ」

 そう言いながらも、ノートをそろそろやろうと思うんです、と堤さんがメールに書いてきた。

 わたしは読みながら思った。この人の場合「ノートをやる」というのはたったひとつのことしか指していない。ノートを体系化することだ。

 ぜひその話を聞かせてほしいとわたしは言った。そして考えた。

 ギアはいつ入ったのだろう、と。

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 2018年、堤さんは『日本懐かしカード大全』(辰巳出版)という本を出版した。

 かつて仮面ライダーカードの爆発的なヒットをきっかけに、キャラクターを載せた子供向けのカードが次々発売された。いわゆる駄菓子屋カードである。この三大メーカーが丸昌、山勝、アマダ。丸昌と山勝は早くからブロマイドを、キャラ物に食い込みたかったアマダがカードを量産した。

 この本を手がけて堤さんはふと或ることに気が付いた。

「ぼくはこういうカードが好きでずっと集めていて、コンプリートしたなんて言ってたけど、今まで全体の流れを見ていなかったんだな」

  駄菓子屋カードはその都度の流行に敏感だ。漫画、アニメ、特撮、野球、キャラクターはつぎつぎ登場する。その中でたとえばアマダがこれほど真剣にカードを出していたとは今まで知らなかった、と堤さんは語る。アマダという会社がキャラクターの紙物に取り組み続けた長い歴史を今回ありありと意識したのである。

 そうやってちびっこ相手のカードの世界を見渡したとき、紙と印刷のキャラビジネスというものが初めて堤さんの胸の中にすとんと落ちてきた。ノートをやろうと思ったのはそこからだ。駄菓子屋カードはキャラクターの紙物を堤さんに俯瞰させ、ノートの世界へと橋をかけたのだった。