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2019年4月

Mr.H/ 蒐集家①

話を聞かせてほしいと頼むとHさんは「このブログは名前を出すからなあ」とぶつぶつ言った。 「いや、匿名で十分です」とわたしは言った。 「今までも匿名のかたはいらっしゃるし」 そうやって了解をもらったが、エピソードを書いたら知り合いにはHさんのことだとわかってしまうだろう。何しろHさんの逸話は一度聞いたら忘れられないものばかりだし、しかもHさんの知り合いときたらおそろしく多いのだ。  Hさんの特徴をひ […]

Mr.H/ 蒐集家②

Hさんは1967年、堅実な両親のもとに長男として生まれた。マニアっ気は微塵もない家庭だったが、Hさんは駄菓子屋の世界に生来惹かれる癖があった。1972年、このちびっこが初めて人生上の大問題に突き当たる。 1972年はすさまじい年だった。 前年末、仮面ライダースナック発売。人生初の大問題はおまけのカードだった。全国のちびっこにとって駄菓子屋戦国時代の幕開けであったこの時期、Hさんは痛恨の5歳。世界は […]

Mr.H/ 蒐集家③

さて、未就学の頃から大問題をかかえたHさんは、おもちゃ屋3軒はしごして帰る小学生に成長していた。いざとなるとおばあちゃんを投入する。おばあちゃんは相変わらず孫には甘かったが、たびかさなる超合金の発売に辟易、「ロボコンが出たときは、ばあちゃんもさすがに怒った」と不肖の孫は回想する。1980年、Hさん中2の年、世間はガンプラブームに沸いた。Hさんもご多分に漏れずこのブームにハマった。ホビージャパン「H […]

Mr.H/ 蒐集家④

当時、1980年代後半、おもちゃ屋のメッカは下北沢だった。高田馬場のねずみ小僧が下北沢へ移転し、ヒーローズと改名する。スチャラカ商会(オムライス)、おもちゃ天国2丁目3番地、懐かし屋。Hさんは青山のビリケン商会へ行った後、下北沢に移動して古いプラモデルをあさっ た。記憶に残る初買物は、2丁目3番地でのV3号2,000円。Hさんが子供の頃からなじんでいたプラモはブルマァクとイマイだった。だが月刊「ホ […]

Mr.H/ 蒐集家⑤

古い電話帳をめくって情報を集め、店をまわる。地方のおもちゃ屋、文房具屋、問屋。専門学校に入ってバイクの免許をとると行動範囲はぐんと広がった。よさそうな店を見つけても、入り込んで倉庫まで見せてもらえるようになるには1~2ヶ月かかった。Hさんはお酒だの菓子折だの奥さんの化粧品だのを店に持参した。「最初から入り込もうだなんて、甘いんだよ」 我ながらあざといと思う手土産作戦は、実際嫌がられたこともあったと […]

Mr.H/ 蒐集家⑥

掘り出し物をいっぱい持ってくる青年がいる。そういって顔なじみの店主がHさんを他のコレクターに紹介するようになった。そこからまたモノを入手するルートが拡大した。ヒーローズにブリキのおもちゃを持って行き、それと交換でマルサンの電動怪獣ペギラを入手したのが90年代初頭のこと。そのときペギラは18万円だった。懐かし屋で電動ブースカ6万円。友達と旅行へ行って、海沿いをドライブする。Hさんは外を見ながら「店は […]

Mr.H/蒐集家⑦

90年代前半、Oさんはワンダーフェスティバルで或るプラモ屋さんと知り合った。これがOさんの問題多き人生に、さらに拍車をかけることとなった。     東十条の店を訪ねてゆくと、店先に古い雑誌がずらりと並んでいた。60年代からさかのぼって、戦前戦後の雑誌やふろく、月光仮面の表紙など、見ている内にOさんはわくわくしてきた。 「なんじゃこりゃあ。こんなの見たことねえぞ。こんな世界があるのか」   […]

Mr.H/蒐集家⑧

 Hさんは言う。 「みんなは子供の頃買っていたもの、欲しくて買えなかったものを買っている。でも俺は子供の頃買ってないものを買っている」  子供時代満たされなかった飢えから出発するコレクターは多い。当時買ってもらえなかったとか親にお宝を捨てられたとか、そんな経験から蒐集にのめりこんでゆく。    本当は仮面ライダーとマジンガーZを買えばよかったのだ。ライダー物と超合金がHさんのちびっこ時代 […]

Mr.H/蒐集家⑨

お前は面白いよな。あっちやりこっちやり。しかも高いものしか買わねえじゃん。 Hさんのことを人はそう言う。 Hさんは、やるならそのジャンルの中で最高のモノが欲しい。だからいつもそこでの最高峰を狙った。 「でもやってるとわかる。ホントにすごいモノはなかなか出てこない。それに高い」 コレクションは或る程度まで行くと、じっと待たねばならない時期に入る。根っから行動派のHさんは待つということが苦手だった。そ […]

Mr.H / 蒐集家⑩

80年代末、バブルの季節にデビューをし、水着の姉ちゃんに目もくれずひたすらプラモを探している内、世間は不況といわれる時期になっていた。ちょうどその頃、最初の電動怪獣ペギラを手に入れた。Hさんのデビューからペギラまでの道は、日本経済が大きくふくらんではじけた時期と重なっている。この間、Hさんはすさまじい勢いで店を駆けめぐり、モノを入手する自分の方法を確立した。     1994年、TV「なんでも鑑定 […]

Mr.H/蒐集家⑪

2004年、雑誌「フィギュア王」65号は食玩特集だった。Hさんはこれを購入してなめるように見た。食玩やおまけの世界はHさんにとって既に大きな問題だった。  Hさんは企業もの・お菓子のおまけの本をたくさん持っている。 「別冊太陽 子どもの昭和史 おまけとふろく大図鑑」 オオタ・マサオ「広告キャラクター人形館(1995年 筑摩文庫) 「ザ・おかし」(1996年 扶桑社) 「ザ・ジュース大図鑑」(199 […]

Mr.H/蒐集家⑫

 Hさんの身には災難もふんだんに降りかかった。 日常の些細なトラブルは災難ではない。高額のニセをつかんだことさえ勘定には入らない。  だが、お宝が水没したことが2回ある。 家の横の川が氾濫し、原画が被害にあった。「うる星やつら」のラムやしのぶの絵コンテもまるまる1冊分ダメになった。二度目のときはセル画がやられた。まんだらけで二十万で買った旧ルパンの不二子のセル画がぐしゃぐしゃになった。  火事にも […]

Mr.H/蒐集家⑬

「ほしいなほしいな、いろんな人に言って。でも金がないときにモノが出てきたらどうする?キャッシングで借りてきてまで買うか?ストッパーは年がら年中外れてるけど。じゃ、それは本当にほしいのか?」    Hさんは自分に問いかけるように言う。   「今は旅行はホントの旅行よ。温泉入ってさ、料理食べてさ。ビビッとくることもあまりない」 「怪獣も妖怪も高いな。高くなったな。ずっとこんなことを […]

Mr.H/蒐集家⑭

Hさんが持ってきてくれた一品は、東京水道局のキャンペーン・東京スリムのゴミラというキャラクターだった。 「これを見ていると、なんかいいんだよなあ」  しみじみ、と形容するしかない口調でHさんは言う。ゴミラの写真をわたしは何枚も角度を代えながら撮った。ゴミラは好奇心の強い小鬼のような顔をしている。欲しいものができたらきっと夢中で突進してゆくに違いない。  

Mr.H/蒐集家⑮

Hさんの話を聞いていると、モノ以上にそれらの並んだ空間というものが、常にイメージの中央に位置しているのに気がつく。或るテーマのもとに集められたモノたちの空間、それを見るといつもぞくぞくした。そのモノたちで身の回りを埋めつくして暮らしている、そういう暮らしの中に入りたいとHさんは思う。おびただしいモノを並べた部屋は、それぞれがひとつの独立した世界となっている。その世界の中へ入りたいとHさんは思うのだ […]