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2018年5月

たかはしちこ(アップルBOXクリエート)/ プロフィール

プロフィール たかはしちこ(アップルBOXクリエート) 1949年、岩手県二戸市に生まれ、高校時代まで岩手で過ごす。 大東文化大学卒業後、新橋にあったニューデザインセンター入社。主にテレビの絵コンテを担当する。大学時代知り合った藤田耕司の誘いにより、1971年、同人誌「奇人クラブ」に参加。 作品に、「ミーコメタモルフォセス」「コトノの冒険」「すーぱーNYANNYAN」など。 フリーの絵コンテ師時代 […]

たかはしちこ (アップルBOXクリエート) / マンガ復刻・同人誌 ①

新小岩駅近く、蔵前通りに面したマンションの一階に古書店がある。 ガラス戸に金色の優しげな字で誓和堂と書かれたその店は一見古書店と気づかず通り過ぎてしまいそうなたたずまいだが、中に入れば貴重な漫画本が溢れ返る、その道で知られたヴィンテージ漫画専門店である。店主は「ミーコメタモルフォセス」などの作品をもつ漫画家たかはしちこ。同時に、アップルBOXクリエートという同人誌サークルの運営者だ。 現在アップル […]

たかはしちこ(アップルBOXクリエート)/ マンガ復刻・同人誌 ②

高橋さんは語る。 「いまは復刻が主になっていますが、これはごくふつうの同人誌活動の延長なんですよ。途中から復刻をスタートして、復刻のほうが知名度が上がったんです」 高橋さんの同人誌活動は、1971年、村岡栄一主宰の「奇人クラブ」という著名な同人誌から始まった。COMで世に知られた「奇人クラブ」は、岡田史子などを輩出し、客分で大友克洋が描いたこともあった。 「その中からデビューしたり、引退したりして […]

たかはしちこ(アップルBOXクリエート)/ マンガ復刻・同人誌 ③

復刻の準備は何年も前から始まっている。 長い時間をかけて資料をさがす。次に作家に連絡をとり、ファンが望んでいるから無償で復刻をお許しいただけないかと頼む。つくるのはオフセット印刷で100部、経費はすべてこちらで持つ。それを通販と二三の古本屋で、2000円ほどで頒布する。 ちなみにこの100部という数字は、高橋さんによれば、印刷所に出すぎりぎりの線であるのだそうだ。 「それ以下だとあまりにも印刷代が […]

たかはしちこ(アップルBOXクリエート)/ マンガ復刻・同人誌 ④

連絡がついても許可がおりない。 版権を所有する企業やプロダクション、作家や権利者を取り巻く力関係の中で、どこにも所属しない個人の同人誌は最も弱いところにいる。 「特に、自分が読者として親しんだ作家さんに対しては、恐れに似た憧れがあって、直に訪ねていって復刻をお願いしたいということがなかなか言えない。後ずさりしてしまう感覚があります」と高橋さんは言う。 個人で作家にたどりつき、理解をもらうことの道の […]

たかはしちこ(アップルBOXクリエート)/ マンガ復刻・同人誌 ⑤

作家や遺族から喜んでもらった時もある。 うしおそうじ「どんぐり天狗」は、かつて作家に許可を求めて返事を保留されていたが、ファンの会社の出版トラブルの余波を受け、話が頓挫してしまった。十数年経って作家の死後、偶然うしお氏の息子さん、作曲家の鷺巣詩郎氏と面識を得ることができ、「おやじのを出してくれて嬉しい」と快諾された。 岡友彦「白虎仮面」も、息子さんから好意的に受けとめてもらえた嬉しい例だった。 次 […]

たかはしちこ(アップルBOXクリエート)/ マンガ復刻・同人誌 ⑥

今入重一さんは、このブログにも登場した横山光輝作品のトップコレクターだ。横山光輝クラブの会長であり、作家の強い信頼を得てその邸に出入りする間柄になっていた。 高橋さんは、まんだらけ中野店に行ったとき、偶然今入さんと知り合いになった。そして、自分が古い漫画の復刻をやっていること、可能なら横山作品も復刻したいことを言った。 今入さんの反応は迅速だった。 「それなら先生に直接会っておいたほうがいいでしょ […]

たかはしちこ(アップルBOXクリエート)/ マンガ復刻・同人誌 ⑦

実際、儲けというのは出るのだろうか。 高橋さんは、復刻で儲けているとずいぶん言われてきた。復刻で家を建てたと言われたこともある。 長年付き合っている印刷所に依頼して、オフセット印刷で100部つくる。サイズはA5版、表紙はフルカラー、本文は二色の上質紙で無線綴じ。「なつ漫王」「漫画市」はほぼ200-250ページ。 「予約してくれるファンたちに頒布し、2割を委託し、どんなに売れても大概1割は残る」と高 […]

たかはしちこ(アップルBOXクリエート) / マンガ復刻・同人誌 ⑧

「誰もこちらが出血しながら続けているとは思わない。でもこれは商売じゃない。趣味なんです。趣味は楽しむためのもの、だから損して当たり前なんですよ」 だが、頭を下げ、赤字を出し、常に版権の弱者としてぎりぎりのところに立ちながら、誰が趣味といって平然と血を流し続けるだろうか。損して当たり前といってそれを数十年続けるひとがいるだろうか。 高橋さんの穏やかで醒めた態度とやっていることの激しさとには抜きがたい […]

たかはしちこ(アップルBOXクリエート)/ マンガ復刻・同人誌 ⑨

ひとりの同人誌作家だった高橋さんの転機は、オフセット印刷の到来とともにやってきた。 同人誌の形態は、初期の肉筆回覧誌からコピー本へ、そして印刷所に発注するオフセット印刷本に変化した。自分たちの同人誌が手製のコピー本ではなくオフセット印刷のものになったとき、高橋さんはその内容のレベルが気になり始めたという。オフセットは、それまでとは格段に見栄えが良く、製作費用も段違いにかかった。 「でも原稿にレベル […]

たかはしちこ(アップルBOXクリエート)/ マンガ復刻・同人誌 ⑩

「商業誌をつくりたいとは思いません」と高橋さんは断言する。 「出版社が復刻をやる時もあるんです。何作か出す。でも続かない。企業だとどうしても採算を考えなくちゃならないから」 勢いよく復刻を始め、企画を維持しきれなくなった例を高橋さんはいくつも見てきた。 「あれ、このごろ出ないな、と思うと、消えている」 かたや商業的にどんどん復刻を出しているところもある。だがそれは主に、確実に購買数を見込める作品だ […]

たかはしちこ (アップルBOXクリエート)/ マンガ復刻・同人誌 ⑪

最初はただ楽しさだけだったのだろう。 読者の懐かしいというコメントに励まされ、復刻の喜びはもっと単純で明瞭だっただろう。 だが長い年月のあいだ、出版をめぐるさまざまな荒波に揉まれる内、高橋さんは、復刻をなしうる条件というものに何度も何度も突き当たったのに違いない。中でも商業的な復刻の限界に対する認識は、高橋さんにとっておそらく決定的なものであったと思われる。 同人誌で、少部数で、版権所有者に許可を […]

たかはしちこ(アップルBOXクリエート)/ マンガ復刻・同人誌 ⑫

今まで復刻した中で特にこれはというものを教えてください。 わたしがそういうと、高橋さんが出してきたのは厚みのある二冊だった。 春名誠一原作・東浦美津夫「どこに青い鳥」上下巻 (「少女クラブ」1958(昭和33)年5月号~1959(昭和34)年3月号初出) アップルboxクリエートは、2005年、この長編少女漫画を上下二分冊で復刻した。 高橋さんは言う。 「今ではあまり知られていない人です。ストーリ […]

たかはしちこ(アップルBOXクリエート)/ マンガ復刻・同人誌 ⑬

実の親をさがすなど、少女が幸せを求めてさまよう話はごく普遍的なパターンだが、当時はとりわけ流行のものだった。東浦美津夫は少女誌でこうした悲しい少女の話を多数えがいている。「少女クラブ」と同時期の雑誌「少女」では、「カナリヤさん」「バラ色天使」「涙のオルゴール」など、孤児となった少女の幸せさがしの物語が続く。 「少女」は、1949年から1963年まで光文社から刊行された少女雑誌。特徴のひとつに当時一 […]

たかはしちこ(アップルBOXクリエート )/ マンガ復刻・同人誌 ⑭ 

この東浦美津夫が、先の春名とのコンビで講談社「少女クラブ」に舞台を変え、名前もトモ子とは別のスターを想起させるものにして、得意の悲しい少女の幸せさがしを描いたのが「どこに青い鳥」である。 意地悪なおばさんの手から逃れ、京都から上京したひづるは、実の母と再会した。だが、ダイヤのリボンの紛失を知って母は心労で入院する。弟まさみは悪者に狙われる。叔父は監禁されている。念願のダイヤを発見して喜んだのもつか […]

たかはしちこ(アップルBOXクリエート)/ マンガ復刻・同人誌 ⑮

高橋さんは今年69歳になる。 「六十代になったとき、これからは何があるかわからない年齢に突入したなと思いました」 体が動かなくなるかもしれない。自分がいつまでこれを出し続ける気力がもてるか、と考える。 だが、出せそうだと考えてすでに資料を集め終わっている作品が、今の時点で20~30点はあるという。 「もっと増えるかもしれません。そういうのをクリアして、もうやることたいしてないや、という状態で復刻は […]

たかはしちこ(アップルBOXクリエート)/ マンガ復刻・同人誌 ⑯

今も続いているかは知らないが、かつて国文学未完資料の会というものがあった。埋もれた文献を発掘してきて翻刻し、仲間うちで配布する。 高橋さんの復刻を知ったとき、わたしはその会のことを思い出した。漫画はこの先、埋もれているものを営々と掘り起こす人たちの対象になってゆく。 「今は話題にもならないけれど、いつどうなるかわからないですよ。こうやって出してあれば、いずれ小さい出版社が手をつけてみようという気に […]