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2017年7月

佐々木大(仮名)/ プロ野球サイン②

みんなハッピーになればいい。 そう佐々木さんは言う。 だがなかなかハッピーになってくれない人もいる。 巨人V9の黄金期を支えた大ピッチャーで巨人軍元監督の堀内は、きまじめな雰囲気を漂わせ、めったにハッピーな様子を見せない。やはり不器用で優しい性格なのだろう。これがまたなかなかサインを書かないが、子どもには書く。佐々木さんのようなラテン系の大人にはどう見てもあまり書きたがりそうにない。 あるとき、堀 […]

佐々木大(仮名)/ プロ野球サイン③

佐々木さんは大人になるまで野球と無縁で過ごしてきた。 子供時代は利根川でトンボを追っかけて遊び、大きくなってからは女の子と遊ぶのが大好きだった。 あるとき、つきあった女の子がジャイアンツファンで、東京ドームに巨人戦を見に行こうよと誘われた。野球を見るなら外野のほうが面白いよ。そう言われるがままにライトの外野席へ行き始めたのが、90年代後半のことだった。 初めて見るなまの試合は印象深いものだったが、 […]

佐々木大(仮名)/プロ野球サイン④

そのうち、サインカードがほしくなってきた。 だいたい2000年頃だったろう。 野球カードはそれぞれの選手の写真が入っているから、見て楽しいし、貰ってみんな喜ぶ。   とにかくまずは昔ながらのサインゲッターにサインのもらい方を教わるところからスタートした。たとえば選手の移動中待っていて、「~さん、サインください!」と言ったりするようなことだ。 そういうのは正直、自分だけでは難しい。人との協力が必須だ […]

佐々木大(仮名)/プロ野球サイン⑤

サインをもらう現場はトラブルだらけだ。 喧嘩は日常茶飯事、暴動寸前になることもある。 ちょっと顔なじみになると、すぐにいきがって列に割り込むやつもいる。  巨人ファンですと言って並んで、自分の分と売る分と貰うやつもいる。俺、ファンだぜ、と言いながらヤフオクに出す。  そもそも列自体が成立しないときだってある。 警備員はいない、トラブルは満載、選手は完全プライベート。 NGが出されることもしばしばで […]

佐々木大(仮名)/プロ野球サイン⑥

ここで少し個人的な話をしよう。 わたしは佐々木さんと東京ドームの前売り所で知り合った。 我が家は長年巨人ファンで、ずっと巨人戦にかよっていた。 佐々木さんがサイン獲りを始め、本格的に巨人にハマっていった2000年過ぎあたり、現場の状況は激動だった。 90年代後半に低迷した巨人は、2000年ようやくセ・リーグで優勝した。 2001年をはさみ、原監督に代わった2002年、西武を4タテして日本シリーズを […]

佐々木大(仮名)/プロ野球サイン⑦

外野席が激変し、応援の人たちも移り変わる中、毎年毎年、佐々木さんのサイン獲りは深まっていった。 「金券屋には行かない。オークションにも頼らない。ぼくの求めるモノはそこには無い」と佐々木さんは言う。  ただこつこつせっせと現場に足を運び、並んで待つ。 まめでないとダメ、と佐々木さん。 「俺が俺が」でなく、コミュニケーションを大切にする。労を惜しまず、手を抜かない。その上で、それに見合うものをきっちり […]

佐々木大(仮名)/プロ野球サイン⑧

2008年は強烈なシーズンだった。 その年、巨人は神宮球場で開幕三連敗。 その後阪神に大差をつけて引き離された。   7月22日、阪神に早くも優勝マジックが点灯する。 だが夏後半、故障で離脱していた選手たちの復帰も手伝って、急速に勢いづくと、9月は破竹の連勝街道をひた走り、ついに阪神との13ゲーム差をひっくり返してリーグ優勝した。 これほどの大差を逆転したのは、セリーグ史上、後にも先にもない。 「 […]

佐々木大(仮名)/プロ野球サイン⑨

2008年11月、日本シリーズ。 東京ドームでの第1戦は西武が勝ち、第2戦は巨人が勝って、競り合った。 西武ドームに場所を移した第3戦は巨人の勝利。次の第4戦は落としたが、第5戦7ー3で再び巨人が勝ち、日本シリーズ優勝に王手をかけた。 流れは巨人にありとファンはみな確信した。だが東京ドームに戻ってきた第6戦、第4戦で巨人を完封した西武の岸が再び巨人を圧倒し、双方3勝ずつのタイとなる。 不穏な空気は […]

佐々木大(仮名)/プロ野球サイン⑩

よく目の前に選手を見て、サインくださいのひとことが言えない。頭が真っ白になって、何も言えない、という話を聞く。 ・・・佐々木さんはそんなことはないですか? 「ないですねえ」と佐々木さんはあっさり言う。 子供時代からの野球ファンじゃないからだと言う説はあるだろう。だから選手を前にして冷静でいられるんだ、と。 そうかもしれない。だがそれだけでもない。 たとえば佐々木さんはアイドルも好きだが、どれほど自 […]

佐々木大(仮名)/プロ野球サイン11

その佐々木さんにも攻略できない選手はいるという。 「2回行ってダメならもう行かないですよ。くれない選手のは要りません」  実をいうと、2008年のジャイアンツ全選手カードに、たったひとりだけ、サインのない選手がいるのだ。・・・阿部慎之助。 ・・・だって慎之助のサインいっぱい持ってるじゃないですか、とわたしは言った。 「それはおとなの事情があるんです」 佐々木さんは、そこは教えられねえという顔をした […]

佐々木大(仮名)/プロ野球サイン12

野球カードは、ベースボールマガジン社のものが一般的だが、ほかにキャンプで選手だけが持ってる配布用カードや、イベントで5人に当たる特別のものがあったりする。 サイン獲りはそのカードを揃えるところからスタートする。 質にこだわる佐々木さんは、雨の日だとカードを持ち歩くのもはばかられる。   サインボールにもひとつひとつ袋掛けする。 保存に乾燥剤を入れていいボールと悪いボールがあるらしい。 「80年代9 […]

佐々木大(仮名)/ プロ野球サイン⑬

サインを書いて貰う用のペンも厳選する。 色紙には水性ペンで貰う。 ボールにはさくらペンタッチ。速乾性で、擦れる心配がない。 ユニホームはマジックインキ。あれは洗濯しても落ちない。マッキーだと薄くなる。 最高のモノが欲しい。 こすれたり、歪んだりしたサインじゃなく、パーフェクトなものが欲しい。 「それは選手だっていろいろ事情はあるでしょう。  でもこちらも、それだけの準備をし、覚悟をして、獲りに行っ […]

佐々木大(仮名)/プロ野球サイン⑭

サインは魂だ、と佐々木さんは言う。 カードを、色紙を差し出しながら、「魂を入れてください」と思っている。 新しいユニホームなどに直接サインを書いて貰ったりするのも「ぼくたち、売りませんから。あなたを応援してますよ」・・・そういう気持ち。 「自分が貰ったサインを持ってると、応援も奮い立つでしょう? それは、そのモノに、選手の魂がこもっているからだ」   だからぼくは、基本的にサインは自分で貰いたい。 […]