Mr.H / 蒐集家⑩

80年代末、バブルの季節にデビューをし、水着の姉ちゃんに目もくれずひたすらプラモを探している内、世間は不況といわれる時期になっていた。ちょうどその頃、最初の電動怪獣ペギラを手に入れた。Hさんのデビューからペギラまでの道は、日本経済が大きくふくらんではじけた時期と重なっている。この間、Hさんはすさまじい勢いで店を駆けめぐり、モノを入手する自分の方法を確立した。

  

 1994年、TV「なんでも鑑定団」が始まった。たかが子供の玩具と思われていた品に意外な高値がつき、昔のおもちゃへの関心は高まってゆく。1996年、ミクロマン復刻。97年、超合金魂発売。ショップをまわって掘り出し物を探す人がどっと増え、どんな地方のおもちゃ屋さんでも目がひらけてきた。雑誌などではさかんにおもちゃの利殖的な価値がうたわれた。1996年8月、宇宙船別冊「怪獣・ヒーローお宝鑑定カタログ」(朝日ソノラマ)刊行(1998年に増補改訂版)、19981月、血祭摩利監修「究極プラモデル大全」(白夜書房)刊行。ページを埋める数々のオモチャにひとつひとつ値付けがされている。不況知らずといわれるサブカル業界は、いつしか投機の場所となっていた。

              

 Hさんは動き回る。Hさんの動きは世間の流れとちっともシンクロしない。わたしは懸命に時系列を追おうとするが、Hさんのモノへの欲望は連鎖して、無数に枝分かれしながら広がってゆく。同時多発的な大小の噴火のように問題は刻々と発生し、事態はどんどん混沌としてくる。Hさんは人の問題まで引き受ける。東で万博グッズを探していると聞けば万博グッズを買い、西でカードを探していると聞けばカードを買う。もはや何が欲望の対象で何がそうでないのか、傍目からはわからない。

 

 知人A氏は証言する。「Oさんはぼくの進化形です。ぼくは一応要るモノしか買いませんが、Oさんは要らないモノも買うのです」

しかし本当のところ要るモノとは何か。そして要らないモノとは何か。

なにしろわかる価値が多すぎる。捨てられないモノ、見過ごせないモノがありすぎる。

 肝心なのは、全てはモノのためにあるということだ。乏しい懐で欲しいモノを入手するにはどうしたらいいか。大問題を解決する根気と才覚と行動力でHさんはずば抜けていた。一度ビビッとなるとすさまじい速度でそのジャンルを習得し、コレクターのところへ会いにいった。知識と手間を総ざらいに使ってモノを買い、それらをまわしてビビッを買った。だからHさんの理解する範囲は驚くべき広さに及ぶ。燃えるようなエネルギーで、コレクションを積み上げ、崩し、積み上げ、崩し、新しい山へ向かってころがりながら進んでゆく。