高橋さって / 聖闘士聖衣大系③

当時えむぱい屋には、セイントクロスを求める客が連日詰めかけていた。今からおよそ20年前のことだ。
・・・しかしなんでそんなにクロスのお客さんがえむぱい屋へ来たんでしょう?

それがわたしにはいささか謎だった。

 

聞くところによれば、フランスには「クロスを買うならえむぱい屋へ行け」と書いたガイドブックすらあったらしい。フランスといえばベルサイユ。フランスといえばルーブル美術館。そのフランス人があの東池袋のジャングルになだれを打つ光景を思い浮かべて、わたしは若干くらっとした。どうしてそこまであの店がこの玩具に関して突出していたのだろうか。

 

このわたしの疑問に、いともあっさり、さってさんは答えた。

 

「そりゃ、聖闘士クロスをまともに扱ってるのが、うちだけだったからですよ~」
”え?”
“こういうこまかいモノだから、よそだといろいろ欠けてる部品とかあったです。そこを完璧に漏らさず揃えているのは、うちくらいのものだったです」

 

わたしは完全に拍子抜けした。
大人気のセイントクロス、古物商の間ではさぞかし競合が多かったろうと思っていたが、どうも様子が違っている。
豊富な需要を目の前にして、ほかの店は一体なにをしていたのだ。

 

・・・プレミアもつけたんですよね。どのくらいですか?
「新品の天秤座(ライブラ)で1万円くらいですかねえ」
発売時の価格は2千400円。4倍程度の値段は中古業界では珍しくもない。詰めかける客たちにどんどん売れただろう。
「最初は売れなかったです」
・・・売れなかった?
「はい。5年は売れなかったです。みんなから、そんなもんにプレミアつけるなんてとぼろかす言われたです」

 

わたしは全然知らなかった。
90年代初頭、中古のセイントクロスはまだ値打物ではなかった。時期的に新しすぎてプレミアはつかないとされていた。パーツもこまかく煩瑣で、完璧に揃えるのは見合わない労力だった。
新品のおもちゃ業界は入れ替わりが激しい。さかのぼってコレクターが集めようとしたとき、中古のおもちゃ業界でいち早く徹底してセイントクロスに肩入れしていたのは、さってさんだけだった。雑多に投げ売りされている商品を本気で揃えて高値をつけるさってさんは、当初、周囲から馬鹿と思われていた。