星まこと / アニメ探究 ⑭

「これ、石黒昇さんが描かれたソノラマ文庫『キャプテン・シャーク』シリーズの表紙ボツ原画です。実はこんな絵も描ける、本当にすごい人だったんですよ」

「石黒さんは、あのつげ義春さんたちと一緒にマンガを描いていたんです。そういうのを捨ててアニメに行った。すごいなあと思います。
それがアニメの魅力?でも茨の道ですよね。小説は自分で書ける。マンガも自分で描ける。でもアニメは共同作業、絶対いろんな人の意思が入ってくる。プロデューサーとかスポンサーとか、総監督にも原作者にもテレビ局にも気を使う。おかみのチェックは厳しいし。全部の意思を総合して、その中で自分をどこまで出せるかっていうせめぎあいがある。

石黒さんは抑制の利いた江戸っ子で、自分はあれやったこれやったって絶対に言わない。でも今、大家になってる人たちが若手の頃みんなあの人のスタッフになっている。なぜこの人たちがここまで化けると見抜いたのか、すごく興味があった。
石黒さんは終始一貫して、かれらは勝手に育っていったんだ、って言う。だけど話を聞くと、『ヤマト』のときに爆発シーン、自分で絵の具をこうやって、セルに指で塗ってみたりしてる。『エヴァ』や『彼氏彼女の事情』で庵野さんが実験アニメみたいな表現をやったけど、そういうことを石黒さんが率先してやっていた。それを若いスタッフたちにも自由にやらせてたってのが見えてくる。

出崎さんとか富野さんとかが大家になって、自分の好きなものをやっている。でも石黒さん、あなたはやらない。どうしてですか、と訊いた。考えてみたらリーダーアルバムがないんじゃないですか、って。
そしたら、ジャズでアドリブを利かせるくらいが好き、っていう言葉が来た。あそこは良いお答えをいただいたと思います。音楽をやってらした石黒さんに、あの質問はぼくが音楽を少しかじってたから言えた。すべての経験が役立って、このためにやっていたのかというような気もしました。

ぼくが石黒さんのスラップスティックを見たいと言った理由ですか?
もともと、石黒さんがなぜ虫プロに入らないで『怪盗プライド』をやってるテレビ動画に入ったかっていう疑問があって。『怪盗プライド』ってのは、海外物みたいな楽しいアニメなんですよ。だから石黒さんは、なんかこう、のほほんとした、気の抜けたようなギャグマンガみたいなのがやりたかったんだろうな、っていうのがあった。ぼくもそういうのは大好きだったから。石黒さんも、ああ、やりたいですねえ、っておっしゃって。そこも、話が合いましたね、みたいな感じでした」