今入重一 / 横山光輝作品 ⑩

ある日、今入さんは喇嘛舎ですごいものを見つけてしまった。
横山光輝の「地獄の犬」だった。


今入さんは迷った。
「何を迷ったかって、3万円なんですよ」

それまでいろいろ買ってきた今入さんだったが、3万という金額は想像の外にあった。内容自体に特別惹かれたわけではない。1957年「少年クラブ」の付録で発表された「夜光る犬」がタイトルを変えて貸本用に単行本化されたもので、肝心なのはB6判というその形だった。
今入さんは、横山の貸本向け単行本はA5判のものしか持っていなかった。B6判貸本は初期作品で格上だった。

今入さんは悩んだ。

「見せられて、即答できなくて、店のおもてに出ては中に入り、それを何回かやったと思います。いろんなことを考えた。これを逃したら?とか、だけど3万だぞとか」

20万だったら諦めた。だが3万は高いといっても現実味があった。
悩んで悩んで、今入さんはついにそれを買った。

「あれがわたしをマニアにしたきっかけです。迷って、一歩踏み込んだ。悩んだ末、足をそこに入れた」

初期作品の判型に憧れ、悩み抜いて大金を使った。全力で形の違いに踏み込んだ。

「買ったあと顔がにやけてたと思います。周りの人がどう思ったか」

「顔が戻せない。やっと手に入れて、顔がゆるんじゃってもとに戻せない」

自分が影丸にいつから惹かれたかはわからない。だがマニアになった日のことははっきり覚えている。さんざん悩んだ末に大金をはたき、その世界へ足を踏み入れた。しかも買った後、毫も後悔しなかった。