佐々木大(仮名)/プロ野球サイン11

その佐々木さんにも攻略できない選手はいるという。

「2回行ってダメならもう行かないですよ。くれない選手のは要りません」

 実をいうと、2008年のジャイアンツ全選手カードに、たったひとりだけ、サインのない選手がいるのだ。・・・阿部慎之助。

・・・だって慎之助のサインいっぱい持ってるじゃないですか、とわたしは言った。

「それはおとなの事情があるんです」
佐々木さんは、そこは教えられねえという顔をした。

「まああれだけの重圧を背負ってキャッチャーをやってたわけですから、サインまで書いてる余裕はないんでしょう」 

要らないとぴっしゃり言った割に、佐々木さんは気の優しいことを言う。

・・・じゃ逆に、サインを書くのにこだわってる選手ってのは、いるんですか?

わたしは重ねて訊いた。 

「木佐貫ですかね」と佐々木さんは答えた。

木佐貫投手は2003年から2009年巨人に在籍した。その後オリックス、日本ハムと移籍し、2016年からは巨人のスカウトマンになっている。

「あのひとは子どもの頃から自分も野球カード集めてたんで、綺麗に書くんですよ。ファンにも優しい。育成からあがったし」

佐々木さんは言う。
選手たちはシーズン最初の宮崎キャンプのとき、配布用の特別なカードを球団から支給される。木佐貫はそれをファンだけでなく、ちびっこたちに小学校の給食イベントなどでも配った。全部自分でサインを入れ、千何番までナンバリングして。

おっ、とわたしは思った。なんだか馴染みのある匂い・・・。こりゃいかにもカード好きのツボを心得ている感じがするぞ。

「自分でもカードが好きなんでしょうね」と佐々木さん。
 

だから木佐貫のカードは自筆のシリアルナンバー入り。そして大事にスリーブに入れられているという。

※注
2008年全選手カードの中には、もうひとり高橋由伸のカードにもサインが入っていません。これは佐々木さんが友人の由伸ファンにあげてしまったため。