佐々木大(仮名)/プロ野球サイン⑩

よく目の前に選手を見て、サインくださいのひとことが言えない。頭が真っ白になって、何も言えない、という話を聞く。

・・・佐々木さんはそんなことはないですか?

「ないですねえ」と佐々木さんはあっさり言う。

子供時代からの野球ファンじゃないからだと言う説はあるだろう。だから選手を前にして冷静でいられるんだ、と。
そうかもしれない。だがそれだけでもない。
たとえば佐々木さんはアイドルも好きだが、どれほど自分が応援しているアイドルの前でもあがったりはしない。

「あなたたちは選手を見つけるとすぐスマホをいじって、写真を撮ろうとかするじゃないですか。
ぼくはまっすぐその人を見て、サインちょうだい!って全力で言いますよ」

 
こう来たらどうしようとか思ってるだけじゃない。
重要なのは、自分が何を求めているかを、はっきりわかっているということだ。
写真?
握手?
自分を覚えてもらうこと?
優しい心の通い合い?

違う。サインだ。

佐々木さんはぶれない。自分の力を結集し、サインを獲ることだけに一心不乱に向かってゆく。
そしてそのあとモノ自体にしがみつく気持ちもない。
集めるまでが好き、手に入れた瞬間がたまらなく好き。