佐々木大(仮名)/プロ野球サイン⑨

2008年11月、日本シリーズ。
東京ドームでの第1戦は西武が勝ち、第2戦は巨人が勝って、競り合った。
西武ドームに場所を移した第3戦は巨人の勝利。次の第4戦は落としたが、第5戦7ー3で再び巨人が勝ち、日本シリーズ優勝に王手をかけた。
流れは巨人にありとファンはみな確信した。だが東京ドームに戻ってきた第6戦、第4戦で巨人を完封した西武の岸が再び巨人を圧倒し、双方3勝ずつのタイとなる。
不穏な空気は漂ったが、わたしたちはメークレジェンドの完遂を信じていた。

 

11月10日、最終の第7戦。
その日は巨人が2点先取し、早くもそわそわした気分が漂った。
5回で西武が1点返す。だが大丈夫。中盤に巨人の追加点が入らないのが気に入らないが、7回裏の「闘魂こめて」は大声で歌う。
応援団は周囲の席にオレンジ色の紙テープを配り始めた。勝利の瞬間いっせいにグラウンドめがけて投げるのだ。マウンドには巨人の越智がのぼり、8回表の投球準備を始めていた。だが忘れようもない。スタンドの空気は異様に重く、ほとんど耐えられないほどだった。めったに席を離れない隣の友人が煙草を吸ってくると言って背中を返し、階段をのぼっていった。

その回、西武先頭打者の片岡は、デッドボールで出塁すると奇跡のような走塁で生還し、2対2、同点。すると2アウト1、2塁、前の試合で4打点をあげた平尾が打った。
試合終了と同時に西武の選手たちがグラウンドになだれ出てきた。歓喜に沸くその胴上げを、わたしたちは指にオレンジ色の紙テープを巻き付けたまま茫然として眺めていた。

さてこの日以降、西武戦で異様に燃える巨人ファンがどっと増えたのだが、佐々木さんにとってもそれは、忘れられない年になった。
シーズン後半、急速に加熱する巨人人気の中で、サインを獲る現場は激変して荒れた。
なんという困難な状況だったことだろう。
あの激烈な年、かれはすべてを攻略した。

2008年を振り返って佐々木さんは結論づける。
・・・越智さんにはずいぶんよくしてもらった。