佐々木大(仮名)/プロ野球サイン⑤

サインをもらう現場はトラブルだらけだ。
喧嘩は日常茶飯事、暴動寸前になることもある。
ちょっと顔なじみになると、すぐにいきがって列に割り込むやつもいる。
 
巨人ファンですと言って並んで、自分の分と売る分と貰うやつもいる。俺、ファンだぜ、と言いながらヤフオクに出す。
 
そもそも列自体が成立しないときだってある。

警備員はいない、トラブルは満載、選手は完全プライベート。
NGが出されることもしばしばで、女の子がいなけりゃ書かない選手もいる。

すべて予定通りには進まない。
そこを連携し、状況を読み、タイミングを待つ。

待ちわびた選手がやってきた。だががっついてはならない。この選手はいつも荷物を置きに行き、飲み物を買いに戻ってくる。そこを見計らって声をかける。

礼儀正しく、目が利き、押さえがきくこと。
その場を理解し、掌握すること。
コントロールするのは自分自身。
何の保証もない野生の荒野で、自分の腕が試される。その醍醐味に佐々木さんはのめりこみ、どんどん深みにハマっていった。